さまざまな個性を持った選手が存在し、各団体が独自の色をアピールしている現在の女子プロレス界にあって、とりわけ突き抜けているのが東京女子プロレスだ。
“文化系プロレス”DDT系列の団体である東京女子プロレスは、フリー選手の参戦が多少はあるものの、他団体との交流は基本的になし。ベテラン選手が所属しているわけでもなく、新人だけで旗揚げされた。
DDTの選手からは指導を受けられるが、女子プロレスラーとしての“お手本”がないだけに、個々のキャラクターやファイトスタイルは自力で考え、磨いていくしかない。
それは難しさであると同時に自由にもつながる。東京女子の最大の魅力は、従来の枠にとらわれない自由な発想。ちびっ子ファンを獲得すべくデビューした、のどかおねえさん(というリングネームの選手)がリング上でピンポンパン体操を踊り、婚活のパワーをリングで発揮しようという「婚勝軍」は分厚くて重たい結婚情報誌ゼクシィで対戦相手を殴ろうとするのが常套手段。しかしゼクシィ編集部に怒られて自粛するハメに。
アイドルグループ・LinQのメンバーである伊藤麻希も所属はフリーながら東京女子でレスラーデビュー。まだ勝利こそ収めていないが、負けても「伊藤のほうが可愛いから引き分け」理論でまったくへこたれず、あげく「アイドルがプロレスをやるのは伊藤が先輩」と、ドラマ『豆腐プロレス』出演中のSKE48・松井珠理奈に噛み付く始末。簡単に言えば、おカタいプロレスファンから怒られそうなことばかりやっているのが東京女子プロレスである。
だが、そんな選手たちが試合をし、存在感を競い合う中でレスラーとしてレベルアップしていくのも、この団体の見どころの一つ。とりわけタイトル戦線の試合では、マニアをも唸らせるような攻防が繰り広げられることも珍しくない。
優宇との前哨戦を終え、険しい表情を見せる才木
3月12日に開催される練馬Coconeriホール大会では、デビュー以来無敗のTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王者・優宇に才木玲佳が挑戦する。
優宇は柔道のベースがあり、現在も総合格闘技を練習する本格派。豪快な投げ技や腕ひしぎ十字固めを得意とする。対する挑戦者・才木はアイドルユニットCheer1のメンバーで、鍛え上げた筋肉で「ムキムキで可愛い」ムキカワを提唱する筋肉アイドルとして(慶応大学出身のインテリタレントとしても)テレビに頻繁に登場している。またラウンドガールを務めていた格闘技イベントKrushの大会中継では、現在ゲスト解説を担当。
そんな何足もわらじをはきまくる才木は、プロレススクール『プロレス総合学院』の一期生でもあり、試合は本格的なもの。その筋肉を活かしたパワフルなキャメルクラッチやタワーブリッジ(アルゼンチン・バックブリーカー)に加え、K-1ジム仕込みの蹴り技も大きな武器だ。今回のタイトル挑戦は、決して話題性優先ではないのである。
タッグマッチで行なわれた前哨戦では、優宇がチョップ、才木がミドルキックを真っ向から打ち合う激しい展開に。東京女子では重量級の優宇を、才木が一瞬ではあるがアルゼンチンで担ぐ場面もあり、観客を驚かせた。
得意のアルゼンチン・バックブリーカーを決めかける場面も
試合後「覚悟しておいてください」と言う才木に、優宇は「(挑戦表明された)1月4日の時点で覚悟はできているので」とコメント。才木の覚悟も感じたという。優宇が強いからこそ挑戦を表明したと語っている才木は、打撃でもパワー勝負でも勝ち「完勝したい」との言葉も残しており、ベルトをかけた一騎打ちは壮絶なものになりそうだ。
優宇がここでも底知れぬ実力を見せつけるか、それとも才木が現役アイドルにしてプロレスで戴冠という快挙を達成するか。まだ東京女子プロレスに触れたことがない人にこそ見てほしい一戦だ。
東京女子の中でも何かと話題になりやすい婚勝軍(のの子&滝川あずさ)。ゼクシィ凶器使用の謝罪会見での号泣ぶりも話題に。3.12練馬では滝川が辰巳リカ(写真左)とタッグ結成
文・橋本宗洋