【世界ジュニア挑戦が決まった岩本。得意技は「孤高の芸術」と、この肩固め】
ここ数年、秋山準社長率いる全日本プロレスの充実ぶりがファンから高い評価を得ている。好調の要因はいくつかあるが、その一つは若き三冠ヘビー級王者・宮原健斗がエースとして確固たるポジションを築いたこと。もう一つはインディーの選手たちの活躍だろう。
個性派、実力派がひしめいており、一概に「インディー=低レベル」とは言えないのが現在のプロレス界だ。昨年は伝統あるチャンピオン・カーニバルで大日本プロレスの関本大介が優勝。宮原vs関本の三冠戦は後楽園ホールの観客を熱狂させる大激闘になった。世界ジュニアのベルトも、昨年から佐藤光留、高尾蒼馬、石井慧介と全日本所属ではない選手が立て続けに巻いている。
単なるゲスト参戦ではなく、実力さえあればインディーの選手もトップ戦線に食い込んでいける。“歴史と伝統”に甘んじない全日本の姿勢が、リング上に新鮮で刺激的な光景をもたらしているのは間違いない。
【岩本の挑戦を受ける王者・石井。岩本の粘り強さを警戒する】
そんな流れの中、今年に入って注目を浴びているのが岩本煌史だ。1月1日付けで全日本所属となった岩本は、もともと名古屋のローカルインディー団体スポルティーバ・エンターテイメント出身。実業団まで柔道に打ち込んでいた経歴を持ち、得意技も突進してくる相手にカウンターで決める高速の払い腰、その名も「孤高の芸術」だ。
名古屋遠征の際、そのポテンシャルに目をつけた佐藤光留が、自身のプロデュース興行『ハードヒット』に招いたことで知名度が上昇。UWFの流れをくむロストポイント制ルールの『ハードヒット』で、岩本は存分に格闘技術を披露し、パンクラスを代表する選手・川村亮(現・ロッキー川村)からも肩固めで勝利を収めている。
また木高イサミ率いるプロレスリングBASARAでも、ユニット「騎馬隊」のメンバーとして存在感を発揮。常に真っ向勝負を展開する直球の闘いぶりが評価されてか、全日本にも参戦するようになり、さらに入団へとつながった。秋山社長直々の誘いだったという。
所属第1戦は青木篤志に完敗を喫したが、2月になるとジュニアヘビー級のリーグ戦『Jr. BATTLE OF GLORY』で初勝利。そのまま強豪たちを振り切ってAブロック代表に。そして決勝戦でも勝って初出場初優勝という快挙を達成してみせた。決勝で闘ったのは佐藤光留。『ハードヒット』で出世のきっかけを作った、いわば恩人であり、フィニッシュは『ハードヒット』で川村を破った肩固めだった。本人にとっても、それに岩本を見続けているファンにも感慨深い優勝劇だったはずだ。
ジュニアリーグ戦優勝の実績により、岩本は世界ジュニアヘビー級王座挑戦が決定。3月12日の後楽園ホール大会で、王者・石井慧介に挑戦する。石井と岩本はリーグ戦では両者KOという結果で、今回が決着戦でもある。
石井はDDTの選手だけに「ベルトを全日本に取り戻したい」と岩本。一度、対戦した手応えから「越えられない壁じゃない」とも。
名古屋のインディー団体からキャリアをスタートさせた選手が、いまや“全日本プロレス代表”として団体を背負い、ベルト奪還に挑む。入団から2カ月半でリーグ戦優勝とタイトル獲得を成し遂げれば、これ以上ないほどのサクセス・ストーリーだ。
これほどの人材を輩出するのだからローカル団体といえどもあなどれないし、そこに目をつける全日本の手腕も見事。岩本の活躍は、全日本の好調ぶりを裏付けるものでもあると言えるだろう。
文・橋本宗洋