およそ10分間。8日に行われた欧州チャンピオンズリーグ、決勝トーナメント1回戦の第2戦。ボルシア・ドルトムントがSLベンフィカを4-0で葬った試合で、香川真司に与えられた出場時間だ。
ベンチスタートの香川は81分から、デンベレに代わって途中出場した。香川がピッチに送りだされた時のスコアは3-0だった。この時点で、既に第1戦との合計スコアは3-1。逆転でドルトムントの勝ち抜けは決まっていた。つまりこの交代によって香川に、勝利を手繰り寄せるための、何かミッションが与えらえたわけではない。どちらかというと、前半からフル稼働したデンベレを労い、休ませる意味合いがあったのだろう。香川は無難なプレーで、そのまま試合終了に貢献できれば問題はなかった。
本人とすれば、ゴールやアシストといった結果は欲しかったかもしれない。しかしチームとすれば、ここで香川が活躍するかしないかは、重要なことではなかっただろう。重要だったのは、目の前のベンフィカにチームとして勝ち切ってベスト8に進出することだった。85分のオーバメヤンの4-0となるダメ押し弾は、香川は反対サイドで、ドゥルムが右サイドを崩してアシストするのを眺めるに終わった。
3月で最も重要なビッグマッチで、ベンチスタートとなった香川。ドルトムントの監督トーマス・トゥヘル氏の中で、香川は“構想外”なのだろうか。気付けば、1月 21日に行われた後期日程初戦のブレーメン戦以来、もう2ヶ月以上に渡って、ドルトムントで先発出場を果たしていない。
出番のなかった2月14日に行われたベンフィカとの第1戦以降に限ってみると、ブンデスリーガでは2月18日のボルフスブルク戦、2月25日のフライブルク戦、そして3月4日のレバークーゼン戦と、香川の途中出場は続いている。そして、そのいずれのゲームでも、チームが3点を奪うと、判を押したようにトゥヘル氏は香川を投入する。香川と代わるのは、決まってデンベレだ。ベンフィカとの第2戦でも同様の交代だったのは、既に記したとおりである。
野球で言うところの、“クローザー”のような扱いなのだろうか。デンベレを休ませるために、香川を投入して、時間をやり過ごしてゲームを終わらせる。そういった意図があるのであれば、トゥヘル氏の中で、役割はどうであれ香川は構想外ではないということになる。
もちろん香川とすれば、納得のいく扱われ方ではないだろう。しかし、ゴールやアシストといった結果も残せていないだけに、受け入れざるを得ない、といったところだろうか。また、現在ドルトムントの中盤はバイグルとカストロの2人で構成されており、そこではより守備力が求められることも、香川が先発から遠ざかっていることの一因か。
このような香川の“クローザー現象”は、いつまで続くのだろうか。
確かなことは、香川がゴールやアシストといった結果を証明して、何らかのパフォーマンスを示して、ようやく“先発ローテ”入りが見えてくる、ということだ。
このままでは、“便利屋”のままシーズンが終わってしまう。
文・大友壮一郎