“記録”は何を意味するのか。3月5日に行われたブンデスリーガ第23節、アイントラハト・フランクフルト対SCフライブルク。フランクフルトに所属する長谷部誠は、キャプテンマークを巻いて先発出場した。長谷部にとって、235試合目のブンデスリーガ。それは同時に、ブンデスの“日本人最多出場記録”を塗り替えた瞬間でもあった。

 しかし、試合を終えた後の長谷部は、いつものブンデスの試合を終えた直後の長谷部だった。何か途轍もないことを成し遂げたとか、前人未到の領域に足を踏み入れたとか、そういった高揚は漂っていなかった。

「特にいつもと変わらず。今までそういう記録自体、それほど意識したことがなかったので。ただ、今日もこの前もそうですけど、チームの結果が全てなので。そういう意味では、嬉しさというのは全くないです」

 チームはフライブルクに1-2で敗北。これでフランクフルトはリーグ戦4連敗である。長谷部は1人のサッカー選手として、ただ目の前の敗北に悔しさを覚え、現在のチーム状況に少なからず危機感を抱いていた。

「全体的にチームとして、迷いじゃないですけど、そういうものが少し生まれているのかなと思います。ここ4試合くらい失点も多くなっていますし。そういう意味では…怪我人とか出場停止の選手が多い中で、苦しい台所事情ですけど、とにかく、いる選手でやるしかないので…やっていくしかないですね」

 もちろん長谷部が、1人の人間として“記録”に何も感じないわけではない。それが単なる通過点と言い切ってしまえるわけではない。

「正直、特に記録を意識してなかったので通過点って言いたいんですけど…ただ、積み重ねるということは簡単なことではないのは自分も分かっています」

 長谷部とすれば、個人の記録ばかりがクローズアップされ、チームの勝敗や趨勢が霞んでしまうことを避けたかったのだろう。今は、シーズンの真っ只中だ。フライブルクに敗れてなお、フランクフルトは6位。ヨーロッパリーグの出場圏内にいる。

 そうした緊張感を維持しつつ、嬉しさを覚えるところはあった。

「これまで、そんなに大きなケガもなく試合にコンスタントに出なければ打ち立てられなかったものだと思いますし、もちろん周りの方の協力もあってのことですけど、自分の中でもサッカー選手として今まで突き詰めてやってきた部分はあるので、そういうものがこのように結果として、記録として評価して頂くのはもちろん非常に嬉しい部分はあります」

 長谷部にとっては、今回の“日本人最多出場記録”は、「サッカー選手として今まで突き詰めてやってきた部分」の集積を意味するのだろう。

 印象的だったのは、対フライブルク戦の審判のジャッジについて、運の流れも絡めて振り返ったこと。

「ここ数試合、こう…レフェリングの部分で少しツキがないかなっていうのはありますけど。まあでも調子が良い時は、レフェリーに助けられた時もあったんで。まあそういうことを考えるとね、こういう悪い時もある、というか」

 ドイツに渡って来て、早9年。良く晴れた日も、雨に霞んだ日も、サッカー選手として1日1日を大事に過ごしてきた。だからこそ、打ち立てられたものがある。

「いい時だけでなく、そうでない時も多くを経験しましたから、振り返れば長かったなというのはもちろんありますけど、ただ、これから先もっともっと記録は伸ばしてかなきゃといけないと思いますし、逆に若い選手に抜かれないくらいの、それくらい突き抜けた記録を目指してやりたいと思います」

取材・文/本田千尋

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