野球の世界一決定戦・WBCの二次ラウンド初戦のオランダ戦が12日の夜、東京ドームにて行われたが、延長11回まで試合はもつれ、終了時刻は日付が変わる間近。その頃、日本全国のプロレスファンは、「野球早く終わってくれ……」と思うか、野球もプロレスも好きな人間は「あぁ、今夜は寝られない……」と嘆くかのどちらかであっただろう。
というのも、テレビ朝日系ではWBCの中継が終わったところで『プロレス総選挙』という番組を流すことになっていたのである。野球中継が長引かなければ、20時58分開始だったのだが、開始はなんと24時13分。3時間15分遅れの開始となったのだ。現役プロレスラー&OB200人と、ファン1万人が「本当にすごいプロレスラー」を決めるというこの番組だが、順位は以下の通り。
20位:アンドレ・ザ・ジャイアント
19位:真壁刀義
18位:ハルク・ホーガン
17位:蝶野正洋
16位:橋本真也
15位:ケニー・オメガ
14位:天龍源一郎
13位:小橋建太
12位:武藤敬司
11位:長州力
10位:スタン・ハンセン
9位:三沢光晴
8位:獣神サンダー・ライガー
7位:ジャンボ鶴田
6位:棚橋弘至
5位:力道山
4位:オカダ・カズチカ
3位:初代タイガーマスク
2位:ジャイアント馬場
1位:アントニオ猪木
昨今「プ女子」が増え、空前のプロレスブームが到来しているという話になっているが、この結果を見ると、プロレスがやはりオッサンのものであるといえるのでは。バリバリの現役は真壁、オメガ、ライガー、棚橋、オカダの5人だけなのだ。ビートたけしは「最近のお笑いやっているヤツの方が自分らの時代よりも面白い」といった趣旨の発言をしているが、通のプロレスファンも同様のことを言う。
すべてのスポーツは記録も向上すれば技術も上がるもの。だから、アクロバティックな技や、見た目の派手な技、さらには会場での演出などは今の方が純粋に面白いのだが、とにかく昭和・平成初期のプロレスラーは、自分の子供時代・青春時代とかぶり思い入れが強いのかもしれない。
馬場がいくら強いと言っても、必殺技は十六文キックである。あの頃は脳天唐竹割り→ココナッツ・クラッシュ→河津落とし→十六文キックでのスリーカウントに納得感はあった。だが、2017年のプロレスにおいて他の選手が十六文キックでカウントワン・ツー・スリーのような展開は想像し難い。1980年代中盤から、パイルドライバーをより過激にしたパワーボムを必殺技にしたのが天龍源一郎である。あれも、天龍の説得力があるからこそのフィニッシュホールド足り得たのだ。だが、現代プロレスではパワーボムでさえ「つなぎ」の技になっている。
そう考えると、「本当にスゴイ」というアンケートを取る場合は、どれだけ多くのファンの心に残ったかが重要になってくる。それは「凄かったらしい」「偉業があったらしい」という情報だけでも十分である。5位の力道山がそれを物語っている。日本のプロレスの始祖とも呼ばれる選手だが、今回調査対象となった人々の何人が力道山の試合を生で観たことか? 空手チョップ以外の技を知っているか? 力道山が亡くなったのは55年前の話なだけに、今回投票した人々は「馬場さん、猪木さんの師匠だからすごいはずだ」という理由も持っていたことだろう。
これが「プロレスはオッサンのもの」の最大の表れだが、ならば30年後、同様の調査を行った場合はどうなるか。恐らく鶴田や長州に入れた現在の40~60代のプロレスファンが続々と鬼籍に入り、その頃こそもしかしたらオカダや棚橋、中邑真輔が上位を独占し、猪木や馬場が5位・6位あたりに入っているかもしれない。
それにしても、『プロレス総選挙』だが、テレビ朝日の中継だっただけに新日本プロレスの映像はふんだんに使えたが、日本テレビ系が中継した全日本プロレス及びプロレスリング・ノアの動画はかなり控え目。静止画が多かったほか、小橋、三沢、鶴田、馬場のコーナーも新日本の選手と比べればかなり短かった。他局の映像はおいそれとは使うことはできない。ネットでは「余計なにぎやかしの芸能人はいらない」といった不満の声は多数書き込まれていたものの、様々な制約があり、しかも放送時間が押しに押しまくっただけに番組関係者の苦労たるや……と感じ入る次第である。
ゲストでNo.1だったのはスタン・ハンセンの大暴れ入場シーンをマネし、リングに上がって『ウィー!』とやりハンセン本人から「Very Very Good!」とホメられた神無月である。
文/中川淳一郎(編集者)
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