レスターがセビージャを撃破し、チャンピオンズリーグのベスト8に進出した。
1-2で敗れた第1レグでは、セビージャに気持ち良くパスを回され2失点。気の緩みをついて何とかアウェイゴールを奪ったものの、力の差は歴然としていた。しかしクラウディオ・ラニエリ監督を解任し、アシスタントコーチのクレイグ・シェイクスピアが監督に昇格すると一気に復調。リーグ優勝まで登りつめた昨季のプレースタイル、つまり前から積極的に敵を捕まえに行く「プレッシングサッカー」に立ち戻り、強豪セビージャを相手に2-0で勝利した。
劇的な勝利を伝える英紙『タイムズ』。見出しは「レスター、夢の世界へ復帰」
この逆転勝利に大きく貢献したのが、4-4-2の2トップ一角として先発した岡崎慎司だった。
プレスの急先鋒として前線の高い位置から追いかけ、敵のパスミスを誘発する。あるいは、連動したプレスで追い詰め、ボールを奪ってショートカウンターにつなげる。攻守両面で貢献度は高かったが、とくに守備面で抜群の存在感を放った。
例えば、立ち上がり1分のシーン。ドリブルで仕掛けていったリヤド・マフレズがボールを奪われると、FWの岡崎は体を反転させ、そのまま猛ダッシュでボールホルダーに食らいついていった。ここでは奪い返せなかったが、敵に詰めることで敵のパスが乱れ、後方部の味方がマイボールにした。20分の場面でも、岡崎は敵のパス回しを追いかけながら左サイドから逆サイドまで突っ走り、嫌がったボールホルダーがGKへバックパス。GKのロングパスを、レスターは後方部で刈り取った。
また、セビージャのボランチのステベン・エヌゾンジに素早く寄せてパスミスを誘い、ジェイミー・バーディのシュートにつなげるシーンもあった。セビージャの嫌がるところに顔を出しては激しく寄せ、彼らのパス回しと攻撃を上手に抑える。そして、自軍のアタックへと効果的につなげていたのだ。こうした岡崎の献身的、かつ精力的な動きを、セビージャが嫌がっていたのは間違いない。
そもそも、レスターはプレッシングサッカーという”原点”に立ち返るために、運動量豊富な岡崎を必要とした。そして、先発に戻った岡崎も役割を忠実にこなすことで、レスターは息を吹き返したのだ。それゆえ、試合後の岡崎も「チームに貢献した手応えがあった」と胸を張っていた。
レスターの変化は、今季のスタッツが証明している。
1試合平均におけるチーム全体の走行距離は、ラニエリ前監督時代の「108.8キロ」から、政権交代後の「111.8キロ」へ上昇。スプリント回数も「499.6回」から「521回」に伸びた。デュエル勝利数も「51.9回」から「71回」へ、タックル数も「16.2回」から「26.5回」へ、それぞれ大幅に増えている。
また、シュート数も「7.6本」から「13.0本」へ倍近く上昇した。アグレッシブに戦うようになったおかげで、今年に入ってリーグ戦6試合連続でゴールのなかったチームは、公式戦3試合で「8得点」とゴールを量産するようになった。そして、その裏では岡崎が献身的な動きでチームを支えているのだ。
そんな彼が戦術上のキーマンであるのは、途中交代で退いた後、チームのインテンシティが著しく低下することでも理解できる。セビージャ戦もそうだったが、政権交代後のリバプール戦とハル戦も、前線から敵を追いかける日本代表FWがいなくなると、必ずと言っていいほどピンチを招いている。岡崎もこの問題点を認識しており、「欲を言えば、自分を交代させない方が安定感を保てるのではないか。同点にされるようなリスクをとらずに攻め続けられる」と指摘している。
とはいえ、本人は現状にまったく満足していない。12月3日のサンダーランド戦を最後にゴールから遠ざかっているのがその理由だ。「点が取れなくて悔しい」と語る日本代表FWは、次のように胸の打ちを明かす。
「チームが勝つためのプレーヤーとしては、(自分は)かなり成熟してきていると思う。ただFWとしては、周りが評価してくれないのでそこに葛藤がある。それでも、今はチームを勝たせたい。今はこのスタイル(=プレスをかけ続ける)でやらないと、試合に出られないのもわかっている」
「(今季のラニエリ前監督は)チームの重心を後方に置いていた。だから、僕のプレスも意味がなかった。今は、プレスをかける分だけ、後ろの選手がついて来てくれる。そこが(以前に比べて)一番よくなったという話をしています。ただ、(シェイクスピア監督も)完全には自分のことを信頼してくれていないと思う。その部分(=献身性)だけで監督に頼らないというか。だから、自分は確実にゴールを決めて、確実な存在になれるよう努力しないといけない」
精力的に走り回って守備でも貢献し、かつゴールも決める。岡崎はそんな存在になりたいと話す。だが少なくともセビージャ戦は、精力的な走りと素早い寄せでチームの勝利に大きく貢献した。
準々決勝の相手はスペインのA・マドリード。この大一番で、日本代表FWはどんな活躍を見せてくれるだろうか。
(取材・文 田嶋コウスケ)