2014年11月にWWEを退団した、元WWE世界ヘビー級王者のCMパンク。CMパンクはWWEの健康面の管理体制に対し不満を訴え、更に自身の扱いや給与面でもWWEを大きく批判した。プロレス自体に嫌気がさし、2015年12月に総合格闘技(MMA)団体UFCと契約。自ら“ベスト・オブ・ザ・ワールド”と称していたプロレスでのキャリアを30代半ばで捨て新しい道を歩み始めた。
UFCと契約後、約2年間にわたりトップレベルの練習を行っていたというパンクは、2016年9月10日、オハイオ州クリーブランドで開催されたUFC 203のミッキー・ガル戦でMMAデビュー戦を行ったが、試合開始直後、ガルのタックルが決まってからほとんど何も出来ず、2分14秒、ガルのリア・ネイキッド・チョークに敗北を喫した。しかし、試合後のインタビューでは晴れ晴れしい表情で次のように語り、世界中のファンやプロレスラーに感動を与えた。
「人生長く生きていたら、大きなことを成し遂げたいと思うものだ。どんなことでもチャレンジしたい。結果はついてこなかったが、まだやめるわけじゃない。まずは応援してくれたみんなと、戦ってくれたガルに感謝したい。必ず戻ってくる。今日は妻との結婚以来のガチ勝負だったよ。コーチや親や、先生に言われた通りに何かする子供とは違う、俺は大人だからね。これから頑張る若者たちにも、絶対に自分を信じて頑張って欲しい。真の失敗は“何もしないこと”だ」
■もはや伝説? CMパンクの「大演説」
ROHやIWAミッドサウスなどのインディー団体で活躍した後、WWEとディベロップメンタル契約を結んだパンクは、2006年8月1日、ECWのTVショーでデビュー。以降、インターコンチネンタル王者や世界ヘビー級王座に就くなど活躍していたが、一躍トップスターになった出来事は、2011年6月27日の試合後におけるWWEに対する数々の批判をぶちまけた大演説だった。
演説では、ジョン・シナが最良の選択であるとするWWE上層部への批判や、さらにシナをビンス・マクマホンの機嫌取り役と批判し、またザ・ロックことドウェイン・ジョンソンが翌年のレッスルマニアのポスターに起用されるなど自身よりOBが優遇される状況などについても批判を述べた。WWEに見切りを付け、WWE王座を持ってWWEを去るという決意表明をした後は、ビンスへの批判を繰り返し、自身とビンスの個人的なやり取りを述べようとしたところでマイクのスイッチが強引に切られ、WWEにとってのタブーだらけの演説は強制的に終了させられた。
それまでWWEでは、体制批判やビンスを名指ししての批判は絶対にありえず、どこまでがギミックなのか明らかではないが、とにかく異例の出来事だったのは間違いない。この演説で無期限出場停止処分を受け、WWE王座挑戦も白紙となったパンクだが、7月11日のRAWでは、ビンスとの公開ディベート上で5年間の長期契約をちらつかせてゴマをすってきたとぶちまけた上で、ビンスに謝罪を要求。番組ラストでビンスは謝罪したが、パンクはこのようなスキッド自体にウンザリしていると言い放った上で契約書を破り捨てるなど、対ビンスの態度を硬化させた。
そして7月のPPVマネー・イン・ザ・バンクにおいて、シナを破りWWE王座を獲得。公約通りベルトを保持したままWWEを退団するが、翌8月1日のRAWのオープニングでWWEと再契約を結んだと発表。8月、サマースラムにて特別レフェリーにトリプルHを迎えたWWE王座統一戦でトリプルHの疑惑の裁定を味方につけ、シナを破り王座を統一した。
■日本のプロレスをリスペクトするCMパンク
またパンクは、日本のプロレスへのリスペクトが大きく、日本人レスラーの得意技を多用する選手としても知られている。代表的なのが、現在WWE・NXT所属のヒデオ・イタミのKENTA時代のフィニッシュムーブであるGTS(ゴー・トゥ・スリープ)で、相手を横向きに担ぎ上げて前方に落とし、顎またはみぞおちを蹴り上げるこの技を長年WWEでのフィニッシュ・ホールドとして愛用してきた。他にも天山広吉のフィニッシュムーブであるアナコンダバイスや武藤敬司のシャイニング・ウィザードなども使用していた。
UFC 203大会後の記者会見では、「僕にとって、最低の最初の冒険になってしまった。今回このようなチャンスをいただけて、断るなんてあり得ないことだった。僕は自分に厳しい人間だ。負けたことにはがっかりしているし、こんなに一方的だったことには腹が立つ。本当はもっとできるんだ」と涙をこらえて語ったパンク。UFC代表のデイナ・ホワイトは、パンクの努力を称賛しつつも、「彼の次戦はおそらくUFCで行うべきではないだろう」とも語っている。
先年末、パンクのMMAのコーチであるルーク・デューファスは「パンクはあれから良くなっているからね。ガルの時は練習していた事ができていなかった」と話し、また「次の試合は、もしかしたら早ければ4~5ヶ月くらいであるかもしれない」ともコメントしている。パンクが再びUFCで試合をする可能性はあるのか? 今後の動向が注目される。