オッス、小生、ファビュラス吉岡。売れない、カネない、髪ないの3拍子揃ったライター(53歳)だゾ! 今日は「革命戦士」こと長州力についてビッシビッシ書くからな! それは2年前の夏のことだった。長州の半生をつづったノンフィクション『真説・長州力 1951-2015』(田崎健太著・集英社インターナショナル)の出版記念イベントのお手伝いをしたのである。
小生はとにかくヒマなため、イベントを仕切った会社の人も気楽に声をかけてくれたのだろう。「ファビュラスさん、プロレス好きでしょ? 事前の台本作りとか、演出案とか、当日の現場の雑用とかやってもらえませんか?」と言われ、二つ返事で「喜んで!」と言ったのだった。何しろヒマだからね。
最近の長州は、愛妻家かつ、バラエティ番組に欠かせぬ愛すべきキャラといったイメージを持たれているが、我々世代からすれば「オレはお前の噛ませ犬じゃねぇ!」「何、コラ、タココラ!」「これ以上、入ってくるんじゃねぇぞ!」「キレてないですよ!」など、常に髪の毛を上げ上げしながらイラついた感じを見せるまさに、「怒れる鬼神」のような存在だった。
そんな長州と実際に仕事で一緒になるという千載一遇のチャンス!小生はいつ「何、コラ、イカコラ、タココラ、ウニコラ、クレクレタコラ!」などと現場で怒られるかと心配しながら最初の打ち合わせに向かった。その日、すでに我々の側は演出案を作っていた。
「ど真ん中プロレス」を標榜する長州が「本の街」である神保町のど真ん中である三省堂本店にて、プロレス好きな書店員を激励する「『真説・長州力』 ヒット祈願出陣式」という企画である。会議室に長州はおらず、出版社の人々と、著者の田崎氏、長州のマネージャーがいた。企画自体は、プロレスのリングに見立てたステージでプロレス団体の旗揚げ興行のごとく幟が多数立つ中、黒のショートタイツと白いリングシューズという、いつものいでたちで真ん中に立つ長州が親分のごとく「よし、売るぞー!」と叫び、書店員が「オー!」と呼応するというものである。これに、長州のマネージャーが難色を示した。
「長州、そんなにエラソーじゃないんですよね……。本人恐縮しますよ」
どうも、長州は自分の本を売ってくれる書店員を上から目線で「叱咤激励」などはできないタイプの人物だというのだ。むしろ、恐縮しながら「売っていただきありがとうございます。なにとぞよろしくお願いします。皆さまのお力添えに感謝します」と言うタイプだというのだ。
そこで、小生は「あっ、そうしましたら、『出陣式』はやめて、『決起集会』にしませんか?」と提案。決起集会であれば、戦士達(皆同格)が、志を一つにするといったイメージになると考えたのだ。マネージャーは「あっ、それだったら大丈夫です。とにかく長州がエラソーに見えるような演出はやめてください。本人、本当にそういう人間じゃないんです」と語った。
そして、マネージャーからはプロレスのコスチュームでイベントに出ることは避けたいという意向があることを聞かされた。取材に来る記者とすれば、黒のタイツと白のシューズというのは一目で長州だと分かるサインとして「ほしい絵面」ではあるものの、そういう方針なのであれば仕方がない。普段着でやりましょう、ということになった。
そしてイベント当日、三省堂の会議室で小生も長州に挨拶をした。「こ、こんにちは、き、今日は小生、必死にやらせていただきます!」とペコリと頭を下げたら長州も「こちらこそよろしくお願いします。ありがとうございます」と頭を下げるではないか。
確かにマネージャーが言う通りの人物像であった。小生はこの日、MCに水を渡したり、記者の誘導をするなどの雑務をしながらイベントを見ていたのだが、長州はやはり書店員にも終始丁寧な対応をし、美人書店員から「私の作ったPOPを読んでください!」と頼まれ、朴訥な喋りで、滔々と、しかし恥ずかしそうに己をホメるPOPを読んだのだった。
かくしてこのイベント自体けっこう多くのメディア露出し、一応小生も末席ながら一仕事を終えたのだが、先日著者の田崎氏と会った時、長州の「いい人」エピソードを聞いた。
「あのイベントの時、パワーホール(長州の入場テーマソング)が流れた瞬間、長州さんは『おい、田崎さん、プロレスの恰好した方がいいかな』なんて言うんですよ。『なんでですか? 今日はそういう話じゃなくしましたよね』と答えたら『いやぁ、こんなに大々的にやってもらっていて申し訳ない気持ちになってしまってね……』って言ってました」
じゃあ、またな! 皆さんもキレちゃいけないゾ!
文/ファビュラス吉岡(3拍子揃ったライター)