5月6日、舞浜アンフィシアターで開催された『巌流島』は、カード発表の時点から賛否両論が巻き起こった。MMAでも知られる中量級の菊野克紀、小見川道大がヘビー級の相手と闘う無差別級マッチが組まれたからだ。
(スネを負傷した菊野。応急処置を受けながら無念の表情)
『巌流島』は、かつてK-1を手がけた谷川貞治氏がプロデュースする新興イベント。総合格闘技に近いが寝技は15秒に制限され、リングでもケージでもなく円形の舞台を使用。相撲のように、そこから落とすことでもポイントになる。さまざまなジャンルが参加できる、公平な異種格闘技戦の場を作ることが大きなテーマだ。
(巌流島ではリング、ケージではなく円形の闘技場で試合を行なう。写真は閉会式の模様)
スポーツではなく武道を標榜する『巌流島』にとって、無差別、すなわち“小よく大を制す”は欠かせないロマンだろう。とはいえ顔面パンチのあるルールで、極端に体重差のあるマッチメイクはとてつもなく危険だ。柔道やフルコンタクト空手にも無差別級はあるが、顔面パンチがない。仮に“中量級の実力者vsそれほどでもないヘビー級”の組み合わせだったとしても、万が一がある。
そしてその万が一で、選手が取り返しのつかないダメージを負ってしまうこともある。今回の無差別級マッチは、菊野と小見川から望んだこと。谷川プロデューサー自身は「やはり危ない。怖いですよ」と戦前から語っていた。
両者の試合は、明暗を分けることになった。小見川(74.9kg)はキックボクサーの楠ジャイロ(116.6kg)に一本勝ち。豪快な巴投げで場外に放り投げ、その際に楠が腰を痛打して試合続行不能となった。劇的かつ鮮やかなフィニッシュに、場内は大爆発。小見川によれば、組んだ時に殴られることもあったが、それは襟を掴んで相手をコントロールし、防ぐことができたそうだ。こうした『巌流島』ならではの技術も興味深い。
また小見川は「小さい相手に負けるリスクを考えたら、相手のほうが怖かったはず」とも。実際、小見川の対戦相手はなかなか決まらなかったそうだ。このあたりも無差別、“体重差マッチ”の難しいところか。
メインイベントでは、77.3kgの菊野克紀が134.4kgのジミー・アンブリッツと対戦。アンブリッツは純ヘビー級のMMAファイターだ。見る者にも覚悟が必要だと言えるこの一戦は、しかしアクシデントで試合終了となった。菊野がローキックを放った際にスネを負傷。傷が骨まで達している状態で試合を続けることはとてもできなかった。1ラウンドの途中だったため、試合不成立で無効試合。消化不良だったが、これも格闘技だと言うしかない。
(体重差マッチに勝利した小見川は興味深いコメントを残した)
小見川はこれ以上ない快勝、菊野は無念の無効試合。ケガはあったが、頭部への甚大なダメージはなかった。それでも谷川プロデューサーは「小見川選手が勝ったと言っても、危ないものは危ない。誰にでもやらせるわけではないです」と、無差別級マッチメイクには慎重な考えを示した。
今後、菊野の再チャレンジはありえても、無差別級が“路線”として定着することはなさそうだし、あってはいけない。そもそも「選手がやりたいと言っているから」でやらせていいものでもないだろう。小見川の試合はとてつもなく盛り上がったが、それはやはり“禁断の盛り上がり”だったのだろう。
しかし小見川や菊野といったMMAでも活躍してきた選手が参戦することで、『巌流島』のレベルやグレードが上がってきていることも見逃せない。今大会には関根“シュレック”秀樹や吉田善行といった格闘技ファンによく知られた選手も出場。これまで未知の格闘技、謎の格闘家を発掘してきた『巌流島』に日本人レギュラーが増えれば、観客は感情移入しやすくなる。その意味では、大きく前進した大会でもあった。
文・橋本宗洋