6月11日の新日本プロレス・大阪城ホール大会で、棚橋弘至が内藤哲也の持つIWGPインターコンチネンタル王座に挑戦する。1.4ドームで内藤に敗れている棚橋にとっては崖っぷちの王座挑戦。レスラー人生の分岐点とも言える闘いだ。

新日本プロレスの隆盛の中で、いて当たり前のように感じてしまうこともある棚橋だが、その存在はプロレス史的に見ても偉大だ。格闘技ブームの時代、一度はどん底まで落ち込んだと言われる新日本が盛り返した原動力、その一つが棚橋のファンサービスとPR活動だったのは有名な話。ツイッターやブログでも手を抜かず、必ずファンを楽しませようとする姿勢が感じられる。

また棚橋は、新日本プロレス道場に掲げてあったアントニオ猪木の特大パネルを外させたことでも知られている。猪木時代の新日本が打ち出した“プロレスこそ最強の格闘技”といった見せ方よりも、プロレス本来の面白さを前面に出していったのが棚橋。そのことで、格闘技ブームの影響から脱し、差別化にも成功したと言えるだろう。格闘技には格闘技の、プロレスにはプロレスの面白さがある。

そんな棚橋の姿勢は、ファイトスタイルにも表れている。棚橋の闘い方は、クラシカルと言ってもいいもの。序盤はジワジワと足を一点集中攻撃。ドラゴンスクリュー、足4の字といった技も使って的確にダメージを与え、相手の動きを鈍らせておいてフィニッシュのハイフライフローにつなげる。

大技は決して多くない。UWF勢が持ち込んだ、キックボクシング式の蹴りを使うことはなく、ことさらに相手の顔面を狙いもしない。その一方で、ひたすらカウント2.9の攻防が続き、必殺技が返されたら雪崩式、断崖式、あるいはさらに危険な角度で、とエスカレートしていった一時期の潮流とも違う。

いくつかのバリエーションはあるものの、基本的に棚橋のフィニッシュはハイフライフロー。完璧に決まれば、ほぼ確実にスリーカウントが入る。

現在のプロレス界では、負傷者が続出していることで、あらためて技のエスカレートぶり、危険性が叫ばれているが、そこで「今のプロレスは」と一緒くたにしてはいけない。いったんは棚橋がプロレスらしいプロレス、いわば“THE プロレス”に軌道修正しているのだ。現在、危険視されているのは、そこから先を目指そうとして出てきた流れだ(とはいえ、試合の攻防だけでなくスケジュール、休養を重視すべしというケニー・オメガの意見も一理ある)。ことさらに顔面を狙ったり、頭から落としたりするのが“エスカレートするプロレス”だとしたら、棚橋は“掘り下げるプロレス”でファンを魅了した。そこにも、棚橋の偉大さがある。

もちろん、だからといって棚橋のプロレスが安全だというわけではない。そもそも、プロレスは危険なものだというのが大前提。だからレスラーは体を鍛えるのだし、その意味で棚橋ほど説得力のある肉体の持ち主もいないだろう。

プロレス人気を復活させたというだけでなく、ファイトスタイルの面でも、今こそ棚橋の偉大さが見直される時ではないか。エースとして活躍する過去の試合を見れば「これぞプロレス」と言いたくなる魅力に満ちていることに気づくはずだ。

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