横浜DeNAファンの間で、1つのシーンが話題となっている。4月30日、横浜スタジアムで行われた対広島戦だ。10対9で横浜DeNAが辛勝したが、抑えのスペンサー・パットン投手(29)が打ち込まれ、うなだれていた。そこに歩み寄り、声を掛けたのが現在、セットアッパーを務める山崎康晃投手(24)だった。チームメイトながらライバルでもあるパットンに、どんな思いで声を掛けたのか、本人に聞いた。
この日、横浜DeNAは強敵・広島相手から序盤3回までに7点を奪い、快勝ムードだった。ところが5、6回で計4点を失い、雲行きが怪しくなった。7回に登板した山崎康は、1回を無失点で抑えたが、8回を任された三上朋也投手(28)が2失点。横浜DeNAも追加点を挙げ、9回を4点差で迎えた。ここで登板したのがパットンだ。4月中旬、不振だった山崎康の代わりに抑えを任されるようになっていた。
登板直後からパットンの表情は一気に険しくなった。いきなりヒットを浴びると、広島鈴木に2ランを浴びた。その後2本のヒットと死球で満塁とすると、田中には押し出しの四球を与え、1点差まで詰め寄られた。なんとか堂林を空振り三振に抑え逃げ切ったものの、パットンはグラブで顔を隠しながら、悔しさからか大きな声で叫んだ。
この様子をずっとベンチで見守っていたのが山崎康だ。開幕当時は抑えを任されていたが、配置転換により現在は7回を任されている。苦しかった自分と、パットンの姿を重ねながら、声援を送り続けていた。「彼がどういう心境でマウンドに立っているかは、やったことがある人間でしか分からないと思うので」と、ぶ然とした表情で引き上げて来たパットンに歩みより、声をかけた。「厳しい中で戦ってきて、ベンチに戻ってきた背中というのも、僕には痛いほど分かる。気の利いたことは言えなかったんですけど、本人のプラスになれば」と、声を掛けずにはいられなかった。
プロ野球の世界は、同じチームでも競争がある。生き残った者だけが、グラウンドに出ることを許されて、その場を勝ち取れなかった者は、いずれユニホームを脱ぐことになる。チームメイトを蹴落としてでも勝ち残れ、という雰囲気も今なお残っているところは多い。そんな中、山崎康から出てきた言葉は正反対だ。「ブルペン(のリリーフ陣)全員、みんな必死でやっていますし、いつ誰が行ってもいいような準備はできている。みんなは家族みたいなものですし、ファミリーとしてひとつひとつの試合を勝っていければいいなと思います」とほほ笑んだ。
山崎康にも悔しいと思う気持ちはしっかりとある。試合後、球場外で行われるイベントで、人目もはばからず涙したこともある。それでも各選手が与えられた役割で全力を出すことが、チームにとって、また選手にとっても最善であることを理解している。だからこそ、チームメイトを素直に応援もし、励ましもする。
14日に行われた阪神戦、山崎康は好投し配置転換以来、14試合連続無失点とした。一方、パットンは9回に打たれ敗戦投手となった。状態を見れば、近いうちに抑え復帰があるかもしれない。ただ、仮に再転換が行われたとしても、“ファミリー”が機能すれば、2人とも持ち場で最高のパフォーマンスを発揮するはずだ。
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