羽生善治三冠(46)が、“ひふみん”こと加藤一二三九段(77)にまつわるエピソードを披露した。東京都渋谷区の将棋会館で取材に応じると、引退が迫る先輩棋士との思い出に「対局中、1分間にみかんを3個食べた時の衝撃は半端じゃなかった」と笑いながら明かした。実力はもちろんながら、いろいろな話題も振りまく愛すべき大先輩との思い出を、楽しそうに振り返った。
真剣勝負の対局中に笑いを誘われたのは、数々の対局を続けてきた羽生三冠にも記憶がない。「記者の方々も見ていないと思うんですけど、順位戦を戦っていた夜の9時半ごろのことです。加藤先生が1分間にみかんを3個も食べられて。あの衝撃は半端じゃなかったですね」と大笑いした。「対局中に笑うことはないんですが、その時ばかりは笑ってしまいました。この先生は強すぎる、やっぱりすごいな」と、型破りな様子に驚いたという。
驚いたのは、みかんの食べっぷりだけではない。羽生三冠が六段のころ、加藤九段と感想戦をしていた時のことだ。「加藤先生に負かされた後なんですけど、すごくしゃべるんですよ。早口すぎて聞き取れないくらい。しゃべっている本人がわかっているのかってくらい早いんです」と、また笑った。ただ、それも実力の裏返しだという。「それはすごく手が見えているんだなとも思いました」。脳内で高速に繰り返される指し手のシミュレーションが、早口となって出てきたのだと理解した。
現在、加藤九段は77歳。まもなく引退を迎えるが「以前お話しした時に、健康さえ続けば80歳でも90歳でも現役ができるとおっしゃっていた。本人としては残念という気持ちが強いのでは」と、心情を代弁した。一方で、今なお衰えない意欲も感じている。「今、将棋界で一番いろいろな活動をされているんじゃないでしょうか。情熱というのは、棋士でもなかなか維持できない人が多い。あの年齢までまったく変わらないというのは、見習うべき姿だなと思います」。天才は天才を知る。加藤九段の話をする羽生三冠の様子は、最後まで楽しげだった。
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