2000年代中盤「格闘技ブーム」が存在した。K-1、PRIDEの興行では、東京ドームや国立競技場といった巨大な施設を満席にし、地上波で中継された。K-1のマイク・ベルナルドがカミソリのCMで「キレテナーイ」と叫んだり、ボブ・サップがバラエティ番組を席巻するなど、格闘技が日常に近い場所に存在した。
身近に感じられることで、格闘技を始める人も増えると思われるだろうが、実際はどうなのか。地上波で大会が放送されることもめっきり減った今、いかにして格闘技の門戸を叩けばいいか、どんな人が向いているのか、柔術家で格闘技道場・パラエストラ東京代表の中井祐樹氏(46)に話を聞いた――。
格闘技をやる人口が減ったかと言われれば、それはないと思っています。そもそも格闘技を開始する理由は何であっても構わないです。強くなりたい、でもいいし、持て余した力を発散したい、でもいい。あとはモテたい、でもなんでもいいんです。とにかく「格闘技をやりたい」と思った人であれば、誰でも参入していい。格闘技のことが分からない人が道場にいてもいいです。
道場で練習をして「腕や脚をこうやると(関節技が)極まってしまう」みたいなことが分かることが重要なんですよ。そういった知識があることによって、相手をやっつけることができるわけです。実際に街で関節技をかけまくるなんていうのは言語道断ですが、格闘技の技の使い方を学ぶことは案外役に立ちます。
もちろん仕事に役に立つかとか、人生にどう役に立つかは甚だ分かりませんが、「体の動き方」というものが分かれば、相手を触るだけで相手が考えていることが分かったりするんですよ。「こいつ、こんなことやろうとしているな……」とかを感じることができる。そういった次元に到達してもらえたらいいと思います。
技のレベル差など、個人差はあるものの、その人なりの向き合い方というものはあるわけです。だから、格闘技はこんなタイプの人が向いている、という決めつけもしたくないし、道場にはこんな人に来て欲しいってのもありません。以前「道場破り、いいですよ」とネットに書いたことがあるのですが、あれを書いた趣旨としては、「最近道場破り仕掛ける人がいなくなったよな……」と感じたことにあります。
今は情報も溢れていて、相手との実力差はなんとなくわかるものです。そして、この大会に出るには、どれだけのレベルにならなくてはいけない、と冷静に考えるものなのですね。昔みたいに幻想が渦巻いていた時代と違うのです。昔であれば、「ストリートファイトでは100戦無敗」みたいな人がいきがって「オレは中井祐樹に勝てる。ヒクソン・グレイシーにだって勝てる」とか言ったものですが、今やそんなことを言う人はいないでしょう。
そこには、ハチャメチャなヤツが出てこないな、という寂しさもあるんですよね……。今や、学校でプロレスごっこをしたら問題児になってしまいます。プロレスごっこを今の時代に肯定するわけではありませんが、昔の子供達はコツコツと体同士が当たることで、コミュニケーションをしていたのです。今はいじめに繋がると心配する向きもあるし、15年ぐらい前は本当のいじめを「プロレスごっこをしていた」なんて言っていたわけです。
今、体同士がぶつかるということがどんなことかを身を持って感じる機会は少なくなっていますよね。子供同士で相撲を取るなんてことも聞いたことないです。そんな時代だからこそ、私は自分の道場には「無茶苦茶なヤツが来てもいいよ」と考えていますし、こんなことを言う私のようなヤツが一人いてもいいのではないでしょうか。
ただし、格闘技は危ないのも事実です。「可能だったら、ジム、道場、スクールに行ってください」と私は言います。格闘技の道場は今は増えていますので、こうした場で学校ではできないこと、社会でやってはいけないことを試せます。しかも指導者の下で技術を高めながら、危険なことを教えてもらえながら格闘技を学ぶことができます。我々の道場は開かれておりますので、もちろんパラエストラ東京でもいいですし、格闘技に少しでも関心のある方は、良い指導者がいる道場へ行ってほしいな、と思います。