11日、東京・銀座で共謀罪反対のデモ行進が行われた。主催は過激派集団の「中核派」。46年前に起きた「渋谷暴動事件」の殺人容疑などで逮捕された大坂正明容疑者が所属する組織だ。
1963年に結成された中核派は、暴力による「革命」を目的に数々のテロ事件を起こし、死者も出してきた。警察庁によると、1971年には約8000人いたという中核派の構成員は、去年には約4700人にまで減少しているが、過激なデモや多くの犯罪行為などを繰り返していることから、国内最大のテロ組織と位置付けられ、警察庁から「極左暴力集団」と指定されている。彼らが目指すのは「労働者による労働者のための国家」だ。そのためには暴力も辞さないという。
そんな中核派の実態を知るため"中核派の三大美女"の一人と言われる洞口朋子さん(28)の案内で、東京・江戸川区にある関係者以外立ち入り禁止の公然アジト「前進社」や、そこの集う若者の姿を取材した。
■およそ100人が共同生活、そのうち20~30代の若者世代は10人
何度も家宅捜索を受けてきた前進社の頑丈な鉄扉には、警察のエンジンカッターによる無数の傷があった。その奥にもまた扉。通常の2倍近いコンクリートを使った、まるで要塞のような作り。洞口さんは「ここの建物を作ったのも全部自分たち。元々建設関係の仕事をしていた方が、あちこち壊れたら直してくれる」と話す。
さらに奥へ進むと、監視モニターが並んでいた。通路の壁には、常に中核派を監視する公安警察の顔写真がびっしりと並んでいた。「警察の家宅捜索の動きや右翼の襲撃などを察知するために監視カメラを設置している」(洞口さん)。
現在、このまるで迷路のような建物で、およそ100人が共同生活をしている。そのうち20~30代の若者世代は10人だ。
「暴力を使ってでも民衆の側が国家に対して戦うことはあると思っていますし、私はそういう運動が本当に社会を変える力を持つんじゃないかなと思っている」という洞口さん。中核派に入ったきっかけについて「19歳のとき、仙台で居酒屋のバイトをしていたのですが、法政大学で三十数人が逮捕された事件があったと聞いて、何が起こったんだろうと思った。それがきっかけで関わっていきたいというか、興味を持つようになった」と話す。
また、中核派全学連委員長・齋藤郁真さん(28)は、法政大学在学中、中核派の学生運動に参加。校内で禁止されていたビラ配りなどの活動により除籍処分を受けた。その後、正式に中核派に入り、法政大学のキャンパスで監視の中、ほぼ毎日、抗議デモを続けている。
齋藤さんに、今もロケット弾や火炎瓶などの武器を造っているのかという質問をぶつけると、「どう言ったら面白いんですかね。もちろん作っていませんよ(笑)」と答えた。しかし、大坂容疑者の逃亡を支援したという報道については「必要だと思ってやっていることが色々ありますので、そのことについてはノーコメント」と口をつぐんだ。
■朝昼晩3食とも当番制で自炊、風呂は24時間入浴可能
そんな齋藤さんが暮らす男子部屋は、足の踏み場もないほど洋服が散乱していた。「ザ・男の部屋。ちょっともう、お見苦しい」と苦笑する齋藤さん。一方、"男子禁制"の女子部屋に寝泊まりしているのは洞口さんだけ。部屋の中はとても綺麗で、鉄パイプなど、武力闘争に使えそうなものは見当たらない。学生寮のようにも見えるが、シュレッダーが3つ、大きな焼却炉もあった。
繁忙期には、朝7時から5日間連続、20時間以上活動することもあるという。そのため、お風呂は24時間いつでも入れるようになっている。
食事は、朝昼晩3食とも当番制で自炊している。この日の夕食は「前進社特製ミートソースパスタ」。高齢者が多いため、健康にも気を遣って薄味にしているという。この日の夕食代は1人あたり400円。
「倹約していかないと生きていけない(笑)」と齋藤さんが話すとおり、機関紙「前進」の売り上げのほか、資金源は「自分たちが集めたカンパやアルバイト」(洞口さん)だという。
■恋バナも「後で物理的総括するぞ!」
ある日、齋藤さんたちが夜間高速バスで向かったのは京都大学。実は一昨年10月、「京大反戦ストライキ」と称して建物をバリケードで封鎖し、一般の学生が入れない状況にし、授業を妨害したとして、齋藤さんら3人は「威力業務容疑」で逮捕されている。
再び京大を訪れたのは、京大出身の中核派全学連・作部羊平さんの自治会選挙の応援演説をするため。「本当は僕らが主人公なんだということをもっと皆に認識してもらいたいという思いでここでやるべきだと思っている。『弾圧を受けたから終わり』とか、『上手くいかなかったからもう帰ります』は最悪だと思う」と、罪を認めている様子はない。
夜になると、齋藤さんらは友人宅の家で酒盛り。お酒が進むと、恋愛話も始まった。女性のタイプを尋ねると恥ずかしそうに「ノーコメントで」と齋藤さん。すかさず友人に「気遣いができる人がタイプでしょ」と突っ込まれると、「後で物理的総括するぞ!」と業界用語を使って切り返していた。
しかしそんな和やかなムードも、「共謀罪」の話になると一転。齋藤さんは「(共謀罪が)通ってしまうことを前提に僕らは話さないですけど」と前置きしながらも「弾圧があれば徹底的に反撃する。僕らとしては『やれるものならやってみろ』っていう感じ」と熱っぽく語った。殺人容疑で逮捕された大坂容疑者についても「無実を信じているし、46年間、多くの人たちの助けを借りて権力の目をかいくぐってきたということは、70年代の正義を信じている人が実はこの社会にはたくさんいるということ」と訴えた。
■YouTubeチャンネルを立ち上げ
彼らは先月から、若者を集めるためにYouTubeチャンネル「前進チャンネル」を立ち上げた。週2回の機関紙の発行に合わせ、動画で解説するという試みだ。少しでも若年層に親しみやすくする狙いがあるという。
洞口さんは「楽しいと思えなかったら全然何の魅力もない運動だと思っている。夢とか希望とかを持てるような社会だったら革命を起こそうなんて思わないし、そんなこと必要ないって思う」。そんな洞口さんにはある夢があったという。それは保育士だ。「子どもと関わる仕事をやりたいってずっと思っていた」。洞口さんは笑顔で「『あなたの隣に過激派が』みたいな。いるんじゃないですかね」と語った。
■メンバーの若者「すごくロマンがある夢」「人生を賭けてやるに値する」
さらに今回、現役学生を含むメンバーを取材し、彼らの本音に迫った。
「原発事故が起きても、政治的意見を言わない方がいいような雰囲気が大学にはあるので、思いを押し殺して生きないといけない。それは人間らしい生き方じゃない」(赤嶺和晃さん、24歳)
「資本主義社会の中で生きていたら、いい大学に入って、いい就職をしてというような競争がある。自分もそういう当たり前の感覚の中で生きてきたが、ここには資本主義社会とは別の人間関係があった。資本主義社会では人間関係が分断されているが、それを乗り越えて新しい社会に向かって仲間が団結する。そういう運動って素晴らしいなと思った」(森幸一郎さん、25歳)
「戦争も貧困もなくす社会を作ることはすごくロマンがある夢だと思う。金銭関係に支配されないような人間と人間の団結・信頼を自分たちの中で創り、拡大していくというのが革命につながる。根本的に生きづらい、孫が非正規雇用の社会を残したいのか。戦争はいやだ、おかしい、と思っているところに革命を起こして活動していきたい」(仲井祐二さん、34歳)
と、革命に向かう活動の魅力を語った。
その一方で、中核派は死者もでるような犯罪行為を繰り返してきたのも事実だ。彼らは武力闘争の是非についてどう考えているのだろうか。
「労働者・民衆は積極的にデモ・集会・ストライキのような、ルールや規範を超えた実力行動に立ち上がるべきだと思う。そうじゃないと結局おまわりさんが『この社会が決めたルールなんだから』とピストルを持って出てくる。それに従っていたら何も変わらない」(深田力さん、38歳)。
では選挙を通じて、民主的にシステムを変えることは考えないのだろうか。深田さんは「議会を軽んじはしないが、議会で革命は絶対に起こせない。資本主義社会を認める人たちを前提に集めている議会は、むしろ革命を起こさせない場所だ」と持論を展開した。
しかし、中核派の思想を理解していない人たちにとって、それは"夢"ではなく"危険な思想"だ。また、今の秩序や制度の中では、暴力的な行動は"悪"になってしまう。
それでも赤嶺さんは「死んだ時に悪名がつけられたとしても、勇気を与えられる存在になれるのなら絶対に価値があると思う」と語り、深田さんも「半世紀近く指名手配されていた人もいれば、今も刑務所にいる人もいる。世の中を歴史から丸ごと変える戦いなので、人生を賭けてやるに値するのでは」と訴えた。
一連の議論を聞いた慶応義塾大学特任教授の若新雄純氏は「彼らの方が夢を持っているという意味で言えば、確かにそうかもしれない。ただ"柔軟性"が全くないと感じた」と話した。
■古谷経衡氏「革命ができると本気で考えているのか疑問」
元静岡県警公安警察の真田左近氏は「こう言うと彼らは怒るかもしれないですけど、左翼セクトというものはある種のカルト宗教に近い性格がある」と話す。
文筆家の古谷経衡氏も「世界中でテロを起こして労働者による社会主義国家を樹立しようとしたトロツキーの永続革命論も7、80年前の話。日本共産党も国民から支持を受けなくなったため武力革命路線は否定して、議会制民主主義の中で社会民主主義的なものを目指していこうといことになった。彼らは自分たちの理想とする共産主義と資本主義が対立したものだと思っている。でもマルクスが資本主義が発展した次の段階に共産主義があると言ったように、対立した関係ではない。志には熱いものがあるが、そうした歴史があるのに、いまだに終戦直後のような夢を見ている」と指摘。「革命ができると本気で考えているのかと思うし、社会主義そのものをちゃんと勉強しているのか。SEALDsの方がよほど立派だった」と疑問を呈した。
編集者・フリーライターの中川淳一郎氏も「彼らは自分たちの思想に反する人たちを馬鹿にしているところがあって、Twitterでも"政権に飼いならされたポチ軍団"というような言い方をしている」「1960~70年代に彼らが暴力的でありすぎたからこそ、今も左翼アレルギーが蔓延している。なぜ、あの時のやり方がおかしかったと学ばないのか」と一刀両断した。
数多くの事件で中核派の弁護をしてきた高島章弁護士も、「議会によって社会主義・共産主義は達成できないと考えていることは間違いない」と話す。その一方で「暴力で社会を変えるという言い方はミスリード。彼らが言っているのは、社会を変える過程の中で暴力は必然的に起きるだろうということ。国家権力との衝突を暴力と言うなら、そこは避けては通れない」と中核派の思想を解説。
また、1986年の迎賓館迫撃弾事件を最後に、かつてのようなテロ活動は行っていないと指摘。「"暴力も辞さない"という看板を下げるのは伝統を捨てることにもなるので、さすがにそれは公式には言えないと思う。今でも我々は非公然、非合法組織だと言っている。しかし、実質は変わっている。公式の声明で、武力闘争、テロやゲリラは当分の間手控えると言っていて、現に30年そういうことは起こしていない」とも話した。
警察庁の統計によれば、構成員が減少する一方、新たな団体も組織しているという中核派。高島弁護士も、「新左翼の党派の中では一番人数がいるし、実際の活動もアクティブにやっている。レトロな存在だとは簡単に言えない。反原発関連の団体を立ち上げ、福島で新組織を作っている」と指摘した。(AbemaTV/AbemaPrimeより)