定番の"言い訳"が通用しなくなる日が来るかもしれない。NHKが示した「ネット同時配信」の原案で、テレビがない世帯に対しても、同額の受信料の支払いを求めることが盛り込まれているのだ。
今回のNHKの原案では、現行の地上放送と衛星放送の受信料制度は維持したまま、テレビを持たずネット同時配信のみを利用する世帯に対する新たな契約形態を設けるというもので、支払いは世帯ごとになる。すでにテレビの受信料を払っている人は、無料でネット同時配信も見られる。
視聴専用アプリを制作、これをダウンロードした人だけが見られるようにする予定だが、NHKは利用するための認証のハードルを上げてしまうと、操作が複雑になって、ネット配信の普及が進まないのではないかと危惧している。
ITジャーナリストの三上洋氏も「問題なのは認証。パスワードやQRコードを一世帯ごとに発行し、管理しないといけない」と述べ、視聴者管理ための制度やシステムは非常に大規模なものになると予想する。
渋谷の若者たちからは、「普段テレビ見る方じゃないんで、お金をかけてまで見ようとは思わない」「NHKって、僕らの世代では余り需要がないかもしれない」といった声も上がる。また、ネット上では「給料を減らす努力をしてからお願いすべきじゃないの」「回りくどい言い方をしないで、"NHK税"って言えばいいんじゃないかな」「まさかテレビみたいに、一軒一軒回って『受信アプリ入れてますかー?』って聞いて回るんじゃないよな?いや、NHKならありえる!」など、皮肉めいた批判の声も聞かれる。
ネット同時配信の実現をめぐっては、NHKと民放で足並みが揃わないのも現状だ。
NHKの上田良一会長は今年1月の就任会見で「理想的には、オリンピック・パラリンピックというのが一つの契機となるので、そこを目指したような形の中で議論が進められたらありがたい」と、前向きな姿勢をみせている。これに対し、日本民間放送連盟の井上弘会長は「もし赤字が出たとしても、NHKの体力では支えられると思う。そしてそのビジネスが定着するのかしないのか。この辺は民放の経営者としては相当しっかりと判断しないとだめだと思う」、慎重な姿勢を示している。
NHKが目標としている2019年まで残すところ2年あまり、果たして実現は可能なのだろうか。
立教大学の砂川浩慶教授は、「特に若者のNHKの離れが大きい。かつては小さい頃に教育テレビを見て、3、40代になると大河ドラマを見るために戻ってくる、ということがあったが、今はそれもなくなってきている。ある調査によると、"民放よりもNHKを見ている"と答えた人が多い層は80代以上だった。70代までは民放の方を多く見ているということ」と指摘。「テレビは習慣性があるので、逆に一度離れてしまうと、なかなか戻ってきてくれない。若い人たちに見てもらうためにはどうしたらいいか考えているのではないか」とNHKの狙いを推測する。
海外の公共放送では、イギリスのBBCは2007年にネット同時配信を開始。2015年の「受信許可料」は145.5ポンド(約26350円)で、支払い率は93.3%だ。同じ年にネット同時配信を開始したドイツの公共放送の場合、2015年の「放送負担金」は210ユーロ(約27890円)で支払い率は98%だ。フランスは無料だが「公共放送負担税」として137ユーロ(約18194円)がかかっており、支払い率は99%となっている。砂川教授は「税金にしている国も多く、イギリスではかつて不払いに対し禁固刑まであった。ドイツやフランスも支払わない人に対しては厳しかった」と話す。
タレントのパックンが「受信料は貧しい人もお金持ちも同じ額になっているし、公共事業として、税金で支えてもいいのではないか」と問題提起すると、経済評論家の川口一晃氏は「国が絡むことで、報道に政府の意向が入ってくるリスクが高くなる可能性がある」と反論。BuzzFeed Japan副編集長の伊藤大地氏は「イギリスのBBCの場合、政権をきちんと監視し、ときには対峙もする。ウェブサイトには報道倫理が明記されており、オープンかつクリーンな姿勢を追求している」と指摘した。
若者のNHK離れが進んだとはいえ、新聞通信調査会の調べ(昨年度)によると、各メディアの情報信頼度で、NHKは新聞や民放テレビを上回る69.8%という数字を獲得、関係者や番組が受賞することも多い。
受信料の支払い率は2016年度末で78.2%と前年度を1.3%上回っており、NHKは今年度80%を目指している。受信料の対価として視聴者の満足度も高めながら、公共放送としての役割、責任を果たす。テレビのネット対応が避けられない時代になる中、NHKは非常に難しい舵取りが求められそうだ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)