東京女子プロレスが今年2度目の“聖地”進出を果たす8月26日の後楽園ホール大会で、インパクト絶大な対戦カードが決まった。山下実優vs里村明衣子のシングルマッチだ。東京女子プロレスのエースが、センダイガールズプロレスリング代表にして“女子プロレス界の横綱”とも呼ばれる大物に挑む。
2人の一騎打ちはこれが初めて。里村が東京女子プロレスのリングに上がるのも初となるが、その機運はあった。3月に開催されたDDTのさいたまスーパーアリーナ大会、両者は6人タッグで闘っている。この時は里村が山下をフォールしたが、里村は「すぐにでもシングルでやりたいくらい」と山下の気の強さを称えていた。
今回はファンの「続きを見たい」という声もあってのシングル決定。7月10日の会見で、山下は「里村選手は素晴らしい選手。さいたまで闘って憧れが強くなった」と緊張の面持ちでコメントしている。
そんな山下に怒りを見せたのが里村だった。「(これから対戦するのに)素晴らしいとか憧れなんて言葉は必要ない」「頑張りますならツイッターで言えばいい」「さいたまで当たった時は“こんなにグイグイくる選手がいるのか”と思いましたけど、今日の山下からは何も感じない」
(里村の厳しさに返す言葉が見つからず、悔し涙を流した山下)
さいたまでは試合後にも張り手の打ち合いから蹴り飛ばすなど「山下とはシングルでやらなきゃいけない」という思いから「私から仕掛けた」という里村だけに、この日の山下のおとなしいコメントが不満だったようだ。里村の厳しい言葉に、山下は思わず涙。「確かに憧れてる暇はない。出直してきます。気持ちを作り直して、里村選手をぶっ倒す」と語った。
会見から劣勢に立たされた山下。これはまさに、団体のエースだからこそ与えられた試練だろう。山下は東京女子プロレスの一期生であり、初代王者。しかも東京女子プロレスは一部フリー選手等を除いて他団体からの参戦はなく、交わらないことで独自路線を築き上げて人気を高めた。
“闘うクビドル”伊藤麻希、観客とピンポンパン体操を踊るのどかおねえさんに“ホワイトドラゴン”辰巳リカ率いる「どらごんぼんば~ず」など、真面目なプロレスファンが怒りそうなキャラクターもいれば、試合内容で見せるタイトル戦線もあるのが東京女子プロレスだ。
女子プロレスの歴史からも周囲の状況からも無縁で、それゆえに“ここにしかない楽しさ”が感じられる。そんな東京女子プロレスが他団体の選手、しかも大物を迎え撃つ意味は大きい。山下に対し、里村と闘っても勝負になる、ファンの期待に応えられると団体側が判断したからこそのマッチメイク。女子プロレス全体のファン、さらにはプロレスファン全体に見られても胸を張れるだけの内容を、今の東京女子プロレスか持っているという判断でもあるはずだ。“相手”は里村の向こうにもいると言っていい。
会見後の囲み取材、「甘さがあった」としながら、山下は「(他団体の選手との対戦で)東京女子プロレスでやってきたことが間違いじゃないということをしめさなきゃいけない。これまで、自分たちのやり方でプロレスを盛り上げてきたんですから」とも語っている。
一期生として、初代王者として他の選手を引っ張っていく立場だった山下。今回は業界の大先輩に挑むという形だが、同時に団体としての新たな闘いに先頭として打って出る役割でもある。8.26後楽園の興行タイトルが「BRAND NEW WRESTLING ~新時代の幕開け~」なのは象徴的だ。
文・橋本宗洋