7月30日、さいたまスーパーアリーナで開催された「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2017 バンタム級トーナメント 1st ROUND -夏の陣-」で、那須川天心が才賀紀左衛門を1分36秒でKO勝ち。「18歳の天才、衝撃のKO劇」はメディアでも大々的に取り上げられたが、試合中のやり取りなどから伝えられていることと、また違った側面が見えてきた。
96秒間と短い試合だったが、序盤から得意のローに、早いワンツーと那須川が打ち込み、そこに才賀も真っ向から打撃で挑む展開に。ちょうど1分経過で那須川のワンツーにスピンキックと叩き込み、首相撲も軽くいなしペースを握る、再びリング中央で打ち合いとなり那須川がカウンターの左ストレートが入り才賀がリングに沈んだ。「一方的な試合」「あびる優の夫KO」といった見出しで、一方的に才賀の惨敗を伝えるメディアが多かったが、当の本人たちはやや違う思いを持って試合に臨んだようだ。
試合後には「紀左衛門さんには昔からお世話になっていて。僕が小さい時から気にかけてくれてくれていました」と語り、那須川のMMA進出にもアドバイスを与えるなど格闘家同士の交流があった才賀はいわば恩師のような存在。
今回の「RIZIN」での那須川vs才賀の試合は、1ラウンド キックボクシングルール、2ラウンド MMAルールという変速ルール。キックボクサーとしてのキャリアからスタートしたものの、総合格闘技のキャリアを積んで来た才賀にとっては2ラウンドへ持ち込むのがセオリーだったのは明らかだ。
那須川は自身のブログ『那須川天心オフィシャルブログ「志高き道のり」Powered by Ameba』で振り返る。「1ラウンドは凌いで2ラウンドに勝負してくるかなと僕は思っていました。」「入場し、レフリーを挟んでルールを聞いている時、紀左衛門さんが 俺は打撃で勝負するからな と僕の耳元で言いました。」「試合直前なのであまり意識はしませんでしたが 本当に打撃で撃ち合いに来てくれました。本来ならば2ラウンドのMMAルールに持っていくために打ち合わずかわして凌ぐのが普通だと思います。正面から撃ち合いに来て正直びっくりしました。」と綴っている。
さらに「今まで闘った選手とは気迫が違い、自分でもやらなきゃやられると必然的に思いました。結果は勝つことが出来ましたが あのまま続いたらどうなるのかはわかりませんでした。本当に尊敬出来るファイターだなと思いました。」この言葉からは優位に進めた試合でも危機感溢れる2人の戦いが存在したことを示している。これは勝利した那須川のリップ・サービスでは決してない。
この話、才賀がいわば弟分ともいえる存在だった那須川のフィールドで真っ向勝負をするといった男気だけの戦いではなかったのも確かだろう。キックボクシングの世界で快進撃を続ける新星に自信を持って打撃勝負で挑む、そこは才賀がインスタグラムに寄せたコメント「あーー悔しい!!悔しすぎるわ 自分の得意の打撃で負けたのが悔しい!!天心ホンマ天才でした」という言葉からも溢れている。
試合には結果がつきまとう。どうしても「那須川に才賀が瞬殺された」という断片的な情報と、芸能的な要素として妻・あびる優をからめ格闘家としてのスタンスを欠く論調が多いことが非常に残念だ。一夜明け会見でRIZINのCEO榊原信行は「才賀紀左衛門、北岡悟、所英男」と敗れた3人の選手の名を出し敢えて讃えた「彼らは正々堂々と戦った。いろいろな意味で」という言葉である程度救われた部分はあるが・・・
いずれにしても才賀と那須川の対戦には第2章があることを期待したい、次は機が熟した時にMMAルールで、才賀も今より強くなっているだろうし、完全にMMA対応を終えた那須川との対戦はまた違った景色を我々に見せてくれるだろう。
photo:那須川天心オフィシャルブログ「志高き道のり」Powered by Ameba