道場に観客を入れて開催する定期興行をベースに、女子プロレス団体アイスリボンは好調な運営を続けてきた。後楽園ホールでのビッグマッチも観客動員が伸びており、取締役選手代表の藤本つかさは「(いつもはステージで使用する)会場北側も客席として開放し、満員に」と豊富を語っていた。
アイスリボンはプロレスサークルも運営しており、そこからプロになる選手も多い。それだけに年齢層もバックボーンも幅広く、小学生でデビューした選手もいれば、元銀行員も。体育会系の縦社会とはひと味もふた味も違う明るさが魅力の一つだ。
ところが、この7月に事件が起きてしまう。所属選手が友人のレスラーとケンカになり、負傷させたことで逮捕。未成年のため名前は明かされておらず、今後は家庭裁判所での少年審判が始まるという。
団体側に直接の責任はないものの、イメージとしては打撃が大きい。未成年の事件だけに余計デリケートでもある。今は「待つことしかできない」(藤本)という状況だ。
そんな状況で開催された8月13日の両国KFCホール大会だったが、場内はほぼ満員に。選手たちの明るさも失われていなかった。長崎まる子、弓李といった若い選手が成長し、8月27日の後楽園大会で世羅りさのシングル王座に挑む雪妃真矢もシングルプレイヤーとしての華と毒っ気を増してきた。
ここが、もう一つのアイスリボンの強みだと言える。主力選手の退団など戦力ダウンがあっても、いつの間にか新しい選手が台頭してくるのだ。
この日のメインは8人タッグマッチ。シングル王座の世羅りさ、タッグ王者の柊くるみ、トライアングル(3WAY)王者の藤本つかさ、さらにMMAのベルトを持つ華DATEがチームを結成した。対するは星ハム子、宮城もちのタッグに華蓮DATE、豊田真奈美を加えた異色チームだ。「こんな時こそ“団体力”を」とは世羅の言葉。アイスリボンは誰か一人のスターが引っ張るのではなく、全員で自分たちの舞台を支え、盛り上げてきた。
これまでにもアイスリボンの選手に深い愛情を見せてきたベテラン・豊田が代名詞のローリング・クレイドルを見せれば、藤本は(不発となったが)その豊田から受け継いだジャパニーズオーシャン・サイクロン・スープレックスにトライするなど、それぞれが持ち味を発揮していった。
アイスリボンらしい華やかさと激しさのある闘いに終止符を打ったのは、くるみの必殺技ナッツクラッカーだった。試合後、タッグパートナーが不在となっているくるみとのタッグ結成に名乗りをあげたのは豊田。8.27後楽園では豊田&くるみvsハム子&もちのノンタイトル戦が行なわれる。
さらに大会のエンディングでは、来年8月26日に横浜文化体育館での2度目のビッグイベントが開催されるというサプライズ発表も。思わず腰を抜かす選手が続出したものの、彼女たちはあくまで前向きだ。大会のシメの言葉は、いつもと同じく団体のスローガン「プロレスでハッピー! アイスリボン」。後楽園満員、さらに1年後の横浜文体へ。今こそ、明るさと前向きさという底力が発揮される時だろう。
文・橋本宗洋
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