基地負担の軽減、危険の除去を目的にした普天間基地の移設問題。政府が移設先となる名護市辺野古沖で工事を開始したのに対し、翁長知事率いる沖縄県側が差し止めを求め訴訟を起こすなど、今も対立が続き、連日抗議活動が行われている。
AbemaTV『AbemaPrime』が先月22日、現地を取材すると、キャンプシュワブを取り囲むように、大勢の反対派の住民が列をなしていた。この日はおよそ2000人が日米政府、そして米軍に対し、滑走路建設のための埋め立て工事中止を求め、抗議の声を上げた。
抗議活動に参加しているのは地元住民だけでなく、県内外からもバスを使って集まってきている。いくつもの団体が組織的に関わり、役割分担をしながら1000日以上も続けられているのだ。運動などを支援するため設立された辺野古基金からは、活動団体などへ、およそ４億6000万円が支援されている。
工事車両が基地に進入しようとしたところで周囲には機動隊が登場。座り込みを続ける人たちを排除していく。前日には、反対派の男性が道路交通法を違反し逮捕者が出る事態も起こっていた。連日のようにゲート前で繰り広げられ、これまで何度もメディアが伝えてきた光景だ。
一方、周辺に暮らす住民の心境は複雑だ。
辺野古に暮らすある漁師は匿名を条件に「色々な要望をして、地域がプラスになるような考えで自分たちは賛成したつもりだ」と、条件付きでの賛成をしたと明かす。しかし、こうした声は報道ではなかなか伝えられないのが実態だ。
その理由について辺野古区商工会前会長の飯田昭弘氏は「顔出しでの発言ができないからだ」と話す。
飯田氏によると「辺野古の一般の人たちは、声を出すのも嫌だ、テレビに取り上げられるのも嫌だというのが現実。ものを言ったらすぐ攻撃される。『カネで魂まで売りやがって』と。物を言えないのが辺野古の住民だ。辺野古の人たちではない反対派は、我々に向かってそう言う」と実情を明かし、「恐らく、一番虐げられているのは辺野古の住民」と苦しい胸の内を語った。
辺野古は意外にも米軍基地と共存してきた。
1950年の朝鮮戦争を機にキャンプ・シュワブが開設され、ベトナム戦争で海兵隊の中継基地となったことで街は賑わった。当時は200軒もの飲食店があったという。
沖縄は1972年に日本に復帰したが、辺野古は下水道や道路などのインフラが整備されないまま取り残されてしまった。ベトナムから米軍が撤退すると、辺野古は衰退の一途を辿った。1996年に日米両政府が普天間返還に合意し、移設先として浮上したのが辺野古だった。これを機に周辺は賛成派・反対派に分かれ、事態は複雑化。
2009年には民主党政権ができ、当時の鳩山由紀夫総理から「最低でも県外」との発言も飛び出したが、結果は辺野古移設に逆戻りし、住民たちの期待も裏切られた。辺野古の住民は置き去りにされ続けているのが現実だ。
飯田氏は「僕らからすると、原発も基地も一緒だ。迷惑施設だ。当然、その迷惑施設に対しての迷惑料を全国民で払ってもらわないと困ると思っている。要望は『インフラを整備してくれ』だ。要するに下水道の整備、道路の整備、これをこの地でやってくれと。街づくりに対して、ちゃんと国が整備してほしい」と話した。
琉球新報の元論説委員長で、沖縄国際大学の前泊博盛教授は「下水道整備をもっと要求すべきだ。辺野古移転に反対している人たちも『海が汚れる、サンゴを守るため』と言っているのが、実は基地にも下水道がなく、海に垂れ流している。行政に言えば補助金が降りるが、それを知らない部分もある。また、移設を受け入れることを決断した島袋前市長の時代には『辺野古活性化計画』が作られたが、放置されている。保守にも革新にも、計画を実行する人が出てきていない」と指摘する。
現地で取材をしてきたジャーナリストの堀潤氏は「国会議員さんたちは基地反対を言っていれば当選できる。本当に私たちのことを思って議員になってくれている人はいるのか。むしろ利害関係のない県外の人が議員になってくれた方が私たちの生活のことを考えてくれるのではないかという声を辺野古で聞いた」と話し、「イデオロギーではなく、そんなジレンマを淡々と伝えて行くことがメディアには求められているのではないか」と訴えた。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
