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 トランプ大統領による国連総会での一般討論演説が話題を呼んでいる。

 そもそも国連総会の一般討論演説とは、国際的な課題に対して、加盟国がそれぞれの立場を表明するもの。世界にアピールできる絶好のチャンスとあって、どの国も熱が入る。今回のトップバッターはブラジルで、開催国のアメリカは2番手。演説のテーマは自由で、制限時間は15分だが、ほとんどが時間オーバーとなる傾向があり、ちなみに今回のトランプ大統領の演説は41分だった。最長記録はキューバのカストロ元議長の4時間半に及んだというから驚きだ。

 就任前には「皆が集まって楽しむだけのクラブに過ぎない」とTweetするなど、国連に対して懐疑的な見方をしていたトランプ大統領。今回の演説では、アメリカが置かれた状況や「米国第一主義」、そして世界の理想に挟まれる形で、中間部には北朝鮮、イラン、ISの問題、さらに国連批判も盛り込んだ。トピックスが多岐にわたるものだったが、アメリカ政治に詳しい前嶋和弘・上智大学教授「何が抜けているかを見るのが演説のポイントでもある。アメリカが積極的ではない温暖化の話が出てこなかった」と話す。

 なかでも北朝鮮に関するパートは、およそ6分にわたった。金正恩氏をロケットマンと呼び痛烈に批判。また、「完全に破壊」する可能性もあると警告した。AbemaTV『AbemaPrime』では、宮澤エマパックン、REINAのネイティブスピーカー3人を中心に、北朝鮮問題にまつわる部分を原文から読み解いた。

■ブッシュ大統領の決め台詞「ならず者国家」を踏襲か

The scourge of our planet today is a small group of rogue regimes that violate every principle on which the United Nations is based.
They respect neither their own citizens nor the sovereign rights of their countries.


訳:我々の地球が現在、直面している災難は不良政権の小さな集まり。彼らは国連の元となる原則を全て犯している。


小松靖アナ:"rogue regimes"を"不良政権"と訳してみました。ここではどこかの国を特定しているわけではありませんが、国連の場で"rogue regimes"と言われたらどんな気持でしょうかね。

宮澤エマ:"rogue"というのは、王道ではないというか、ちゃんとしてないという意味合いですね。"going rogue"とか言います。丁寧にdisっているというか(笑)、いつものトランプ節という感じもします。

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前嶋教授:一般に「ならず者国家」と訳しますね。十分にネガティブな言い方ですよね。ただ文章そのものが綺麗に作られているので、まさに上手にdisっているという印象です。

パックン:『スターウォーズ』シリーズに『Rogue One』という作品がありましたね。

宮澤:しかも"small group"、小さいというのも、アメリカという大国に比べれば取るに足らない国なんだと、けなしているようにも受け取れます。

パックン:ブッシュ大統領がイラクなどを指して"rogue nation"と言うのが決まり文句だった歴史的背景も感じます。「お前らもちゃんとしないと、知らないぞ」というメッセージもなのかもしれません。

前嶋教授:当時、ブッシュ政権が"rogue nation"と名指しした国のうち、残っているのは北朝鮮だけですからね。

■「ロケットマン」を書き加えたのはトランプ大統領本人!

The United States has great strength and patience, but if it is forced to defend itself or its allies,we will have no choice but to totally destroy North Korea.
Rocket Man is on a suicide mission for himself and for his regime.
The United States is ready, willing and able, but hopefully this will not be necessary.

That’s what the United Nations is all about; that’s what the United Nations is for.

Let’s see how they do.

訳:アメリカは我慢強いが、本国と同盟国を守らなければならない状況になれば、北朝鮮を完全に破壊するしかない。ロケットマンは自分、そして自分の国民を自殺行為に巻き込んでいる。米国は準備ができていて、意欲を持ち、起動可能だが必要はないことを願っている。これは国連に関することで、国連はこのためにある。彼らがどうするか見てみよう。

小松アナ:かなり強い口調です。これを国連の場で言ったんですよ。

REINA:ただ、"if it is forced to defend itself or its allies"、つまり自国もしくは同盟国が追い込まれた場合は、ということなので、今まで言ってきたことと同じではあります。"totally"=完全に、という言葉が引っかかるかもしれません。確かに私たちの基準からすると強い表現ですが、これはトランプさんの口癖なんですよね。盛り上げるために、よく"absolutely"とか、"excellent""fantastic"とか言っちゃうんですよ。私たちはそんなに使わないんですけど…。

パックン:REINAさんの一世代上というか、僕たちの世代から上がよく使っていたスラングですね(笑)。日本語だと、"超○○"とか"ド○○"みたいなニュアンスですね。

前嶋教授:どうだ!と宣言している感じですよね。

パックン:REINAの言うとおり、安全保障政策としてはハッキリしていることなんですね。ただ国連総会でこういう表現をするというのは、アメリカ大統領として品格がないようにも思いますね。ブッシュ大統領も、「間違った判断すると良くない結果につながりかねませんよ」くらいの言い方だったので。

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REINA:確かに内容的には2002年のブッシュ大統領のイラクに対する演説の方が辛辣だったと思いますが、表現はこちらの方がわかりやすく、過激ですね。

小松アナ:後段の"Rocket Man"=ロケットマンという表現から始まる一文はどうでしょうか。

宮澤:先にTwitterでは使っていた、ちょっとお気に入りのフレーズですよね。

パックン:この演説以降、ものすごいペースで検索されていると思うんですが、エルトン・ジョンの1972年のヒット曲のタイトルでもあり、アメリカでは知らない人はいない言葉です。でも、近所のおじさんが歌いながら「あの引用だよね」って話しているような、若い人にとってはちょっとダサい印象があると思います。

前嶋教授:トランプ大統領は、自分の敵だと思う人にクスッと笑ってしまうようなニックネームを付けてきた人です。選挙戦でもそうでした。だから、金正恩という名前を知らない人や支持者の間では「あのロケットマンがさ~」と使われているんじゃないかと思いますね。

REINA:トランプ大統領は、当日の朝までこの言葉を入れるかどうか悩んで、最後に決心したとも報じられています。

小松アナ:韓国の文在寅大統領との会談でも使ったそうですね。それから"suicide mission" というのは、いわゆる特攻作戦、自爆攻撃みたいな意味ですよね。それを一国のリーダーに対して使ってしまうのもすごいですね。

前嶋教授:これはアメリカのメディアが引用することを見越して使っていますね。

REINA:頭がいいですよね。"Rocket Man"もそうですが、取り上げられることをわかっていて入れたんだと思います。ここだけはスピーチライターではなく、絶対に本人が書いたんだと思います。

パックン:絶対そうですね。今回、"looser terrorist"、負け犬のテロリストという言葉も使っていましたが、明らかにブルックリン育ちのトランプ大統領らしい、品のない、けなし言葉です。

REINA:スピーチライターは絶対使いませんね(笑)

小松アナ:トランプ大統領はスピーチライターが止めても使うんですか?

REINA:そうですね。ところどころに、こういうトランプっぽい言葉を入れるんです。

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前嶋教授:今回もスピーチライターのスティーブ・ミラーという人の書いた原稿に手を入れていると思います、これまでの演説も手掛けてきミラーは、トランプ大統領のダークサイドを文章化する、リベラル側から見ればダース・ベイダーのような、評判の悪い人ですね。今回は相手が北朝鮮だったり、国連の場なので、功を奏している部分もあるとは思いますが…。

宮澤:上手いなと思うのは、選んでいる言葉もセンテンスも、キャッチーだし分かりやすい。喧嘩をするときのような、自分はこれだけ我慢づい良いんだけど、もしふっかけてきただら準備はできてるぜという作り方。誰でも聞いてすぐわかる。

REINA:アメリカの政治家というのは、大体14~16歳で理解できるボキャブラリーを使って話すんですが、トランプ大統領は10歳以下、小学生レベルに合わせていますよね。就任演説では難しい言葉も使っていましたが、今回は特に簡単にしていたと感じます。

パックン:それがメディアでフィーチャーされますから、支持者たちは「よくぞ言ってくれた!」と喜びますしね。ただ、アメリカ国内では評価が二分されているので、嫌いな人は「うわ~、ダセえ、お父さん辞めてくれよ」みたいな(笑)。でも間違いなく、エルトンジョンの曲が頭に流れた人は多いと思う。

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伊藤大地(BuzzFeed Japan副編集長):私が気になったのは、他の部分で出てくる"It is an outrage that some nations would not only trade with such a regime~"ですね。"このような政権と貿易をする国がいるだけでも許しがたい"と訳されてますけど、相当強い表現です。


小松アナ北野武さんの映画でおなじみですね(笑)

宮澤:"It is outrage"と言うと、とてもドラマチックな印象になります。

REINA:正しくは、"許しがたい"の100倍くらいの気持ちです。もうありえない!という感じです(笑)。

■日本人にも響く表現

We were all witness to the regime's deadly abuse when an innocent American college student, Otto Warmbier, was returned to America only to die a few days later.
We saw it in the assassination of the dictator's brother using banned nerve agents in an international airport.
We know it kidnapped a sweet 13-year-old Japanese girl from a beach in her own country to enslave her as a language tutor for North Korea's spies.

訳:罪のないアメリカ人の大学生オットー・ワームビアが米国に帰国した数日後、亡くなった時に我々は皆、(北朝鮮)政権の命取りの悪用を目撃した。また、独裁者の兄が神経ガスを利用して国際空港で殺害された時も、13歳の可愛い少女を海岸から拉致し、北朝鮮のスパイへの日本語の語学教師として奴隷化したことを。

宮澤:感情移入しやすく、想像を掻き立てられる文章ですよね。"sweet"というエモーショナルな単語と、"enslave"、奴隷化という生々しくて恐ろしい単語の対比に、現実を突きつけられる感じがします。

小松アナ:日本だと「拉致」という言い方をするんですが、"kidnap"は誘拐だし、「工作員」も"Spy"=スパイですよね。そして"slave"、奴隷。スパイに日本語を教えるために誘拐され、奴隷にされたと言われれば、子どもでもわかる。英語って直接的な言語だなと感じることがあるのですが、今回は分かりやすいことばを使っていることもあって、日本人にも非常に直接的に響いてくる感じがします。

パックン:昨年、大統領演説に関する本を書いたんですが、政策に関するドライで長い演説でも、途中で個人名を出して、その人が置かれた状況を描写するだけでグッと身近に感じさせることができるんです。スピーチライターのテクニック、常套手段ですね。この部分も2、3行なんですけど、被害者の絵が思い浮かぶし、そこへの同情や悲しみが、大統領がしようとしていることの支持に繋がりやすくなるんですよ。

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REINA:一人はアメリカ国民、一人は金正恩のお兄さん、そしてもうひとりは同盟国である日本の13歳の女の子という3人の登場人物も、効果的に聴衆に訴えてきます。

前嶋教授:アメリカでは拉致問題はほとんど報じられてこなかったんですね。トランプ大統領の演説に先立って、安倍総理がニューヨーク・タイムズに寄稿して、北朝鮮の問題を訴えました。そこでも「13歳の女の子が」と書いてあるんです。おそらくトランプ大統領側もそれも読んでいたでしょうし、日本政府からの働きかけもあって採用したんだと思います。安倍さんとも事前に打ち合わせしていたと思います。

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 トランプ大統領の演説中、北朝鮮代表は退席。20日付の北朝鮮『労働新聞』は「情勢は再び一触即発に直面している。わが国はこの惑星でアメリカ帝国の侵略の野望を抑止する名実共に平和を守る砦になるだろう」などと反応。中国とロシアも、トランプ大統領の演説中は席を外していた。

 北朝鮮をめぐっては、各国の首脳も演説で相次いで言及。フランスのマクロン大統領は「北朝鮮は我々にとって目前に迫る脅威だ。ロシアと中国を含むすべての国々と共に、交渉のテーブルで迫る危機を政治的に解決することが我々の責任だ」と語った。その一方、ドイツのメルケル首相は、「この争いの唯一の解決策は平和的な外交だ。他の方法をとれば悲劇を巻き起こすことを確信している」と述べ、トランプ大統領の演説に対して苦言とも受け取れる反応を示している。

 日本時間の22日には、安倍総理も国連で演説。あらためて対話よりも"圧力"なフェーズだとの認識を示した。北朝鮮の次の一手はー。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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