スポーツの世界では、大きな怪我をすることなく、長年にわたって試合に出続ける選手をこのように呼ぶ。
プロ野球でいえば、ルー・ゲーリッグの世界記録2130試合連続出場を更新した衣笠祥雄、1492試合連続フルイニング出場の世界記録を持つ“アニキ”こと金本知憲。Jリーグでは、昨年140試合連続フル出場を果たした横浜F・マリノスの現役DFの中澤佑二や、浦和レッズの阿部勇樹などが代表的だろう。
そしてフットサルの日本最高峰リーグ、Fリーグにも“鉄人”と呼ぶにふさわしい選手がいる。
水上玄太。Fリーグ最北のチーム、エスポラーダ北海道のエースストライカーだ。Fリーグの出場試合数は「289」で歴代1位。昨年8月にFリーグで初となる250試合出場を突破した後も、記録を伸ばし続けている。
特筆すべきは、水上が「ピヴォ」の選手であることだ。ピヴォというのは、サッカーでいうFWのようなポジションで、最前線で攻撃の起点となる。相手を背負ってボールを受けることが多いので、肉体的な接触は避けられない。170センチ、68キロという体格は、むしろ小柄な部類に入る。それなのに、なぜ水上は大きな怪我をせずにプレーできるのか?
水上がお手本としているのが、“キング・カズ”こと三浦知良だ。2012年1月、カズは、Jリーグのオフ期間中にFリーグに1試合限定で出場した。このときにカズが参加したチームこそ、水上がプレーするエスポラーダ北海道だったのだ。
水上にとって、カズは子供の頃から憧れたスーパースターだ。そんな選手と1試合限定とはいえ、同じチームでプレーできたことは、大きなものだった。1時間以上前から練習場に入ってじっくりとストレッチをして、練習が終わったあともじっくりとリカバーをする。40歳を超えても、プロ選手としてJリーグのピッチで戦い続けられる理由を目の当たりにした。
「カズさんと一緒にプレーできたことで、自分の体のケアをする大切さを感じました。長い現役生活を目指すのであれば、トレーニングもそうですがコンディション作りのうまい選手にならなければいけないと」
Fリーグ選手のほとんどはプロではなく、仕事をしながらプレーしている。北海道のエースである水上も例外ではない。平日は仕事をしてから練習をして、週末に試合。そうしたサイクルの中で、どうしても十分に疲れがとれないまま、トレーニングに臨むこともある。そういう状況で水上が心がけているのが、あえて「全力でこなす」ことだという。
「休み明けは体が重いのは仕方ないので、遅くてもいいから自分の限界までしっかり追い込むことが、試合に向けてのコンディション作りの一番大事なことだと思っています」
若い選手が多い北海道にあって、水上の実力と経験は頭ひとつ抜けている。それでも、水上は若手と同じように、むしろ先頭に立って追い込んでいく。それは50歳を迎えて、自分の子供と同じぐらいの選手と一緒にプレーしても、まったく手を抜かない、あの“キング・カズ”にも重なる。
このままいけば今シーズン中に水上が300試合出場を達成する可能性は高い。だが、水上がそこで満足することはないだろう。次の試合に向けて黙々とコンディションを整えて、ピッチに立てば自分の役割をまっとうする。それこそが水上が“鉄人”と呼ばれるゆえんなのだから。
水上のいるエスポラーダ北海道は23日の第17節でバサジィ大分と、24日の第18節でデウソン神戸と対決。AbemaTV(アベマTV)のSPORTSチャンネルで生中継される。
文・北健一郎(futsalEDGE編集長)