中学生棋士・藤井聡太四段(15)の出現でブームが到来した将棋界が近年、20代前半さらには10代棋士の台頭が著しい。藤井四段の連勝を「29」で止めた佐々木勇気六段(23)、2016年度の勝率1位を誇る青嶋未来五段(22)ら、“段位を超えた”実力者が名を連ねている状況だ。将棋界のトップに長く君臨する羽生善治二冠(46)を筆頭とするいわゆる「羽生世代」を脅かす若手世代について、羽生世代から20年ぶりに名人を奪取した佐藤天彦名人(29)に話を聞いた。
将棋界の勢力図は、ここ数年で急速に変化しつつある。七大タイトル(今年から叡王戦が加わり八大タイトルに)は、渡辺明竜王(33)を除けばその他の6つのタイトルを、羽生世代を中心に、ほぼ40代の棋士が長年に渡り独占している状態だった。名人のタイトルに限れば、1998年に佐藤康光九段(47)が獲得して以来、2002年から羽生二冠と森内俊之九段(46)が2人で防衛し続けるなど、約20年も羽生世代のものだった。そこに“風穴”の開けたのが、佐藤天彦名人だ。2016年に当時の羽生名人から奪取すると、今年の名人戦では稲葉陽八段(28)と21年ぶりの20代対決。新時代の到来を予感させた。
世代交代の流れの先頭を走る佐藤名人にとっても、羽生世代は分厚い壁だった。「40代の先生方は、自分たちが奨励会員のころに憧れ、目標としていた方たちばかり。今でもトップで戦われているのがすごいこと」と、尊敬の念は変わらない。それでも「最近は少しずつ10代、20代の若手がトーナメントの上位に来て、(羽生世代の)壁が貫かれようとしているところ」と、名人さえもその強烈な勢いをひしひし感じている。
大きな世代のうねりの中では、来年30歳を迎える佐藤名人であっても安泰とは思っていない。「これから若手同士の中でも競争が熾烈になる。ベテランのトップ棋士、僕らくらいの30代に差し掛かる世代、さらに20代前半から中盤の有望な棋士。これだけでもカオスな状況です。世代間による、価値観のぶつかり合いが出てくると思います」と、単なる世代交代どころか、群雄割拠の時代に突入すると見ている。
AbemaTV(アベマTV)の将棋チャンネルで放送される「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」は、若手7人とベテラン7人がチーム戦で対決する、まさに世代間抗争の対局企画だ。若手では藤井四段、佐々木勇気六段、青嶋四段のほかにも八代弥六段(23)、近藤誠也五段(21)佐々木大地四段(22)、増田康宏四段(19)と、実力を高く評価されている棋士の名前が並ぶ。「若手のころから評価される人は、その後も上位に行く傾向にあります。若いころからトップ棋士を打ち破っていく人もいるでしょう。名人候補、未来のタイトルホルダーは、この中にたくさん混じっているんじゃないかと思います」と明言した。また、名人としても「彼らか挑戦者として来るまで、しっかり守っていかないといけないですね」と気を引き締めた。
佐藤名人が名人のタイトルを獲得したのは、デビューから10年後。規定上、名人挑戦には最低でも5年が必要だが、その他のタイトルであれば、どのタイミングでも20代前半、さらには10代のタイトルホルダーが誕生しても不思議ではない。デビューから日が浅く、段位も低い若手棋士だが、その戦いぶりと成長は既にトップレベル目前まで迫っているかもしれない。
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