将棋界にとどまらず広く話題を提供した藤井聡太四段の大活躍。その活躍がテレビで放送される際に、よく藤井四段の将棋を評価・解説していた棋士がいるのをご存じだろうか。杉本昌隆七段、藤井四段の師匠だ。将棋の事だけではなく、藤井四段の人となりまで含めた解説も記憶があることだろう。

 プロ棋士の養成機関である奨励会を受験するためには年齢などの条件もあるが、一部の例外を除いて四段以上のプロ棋士の推薦が必要になる。推薦してくれた棋士がそのまま師匠となるのだが、その師匠と弟子はどのようなどのような関係を築いているのだろうか。

◆奨励会在籍中は「親代わり」

 そもそも最初にどのように師匠と弟子の関係になるのか。よくある例では、子供の頃から通っていた地元の将棋教室の先生をしているプロ棋士や、将棋教室の席主と親交の深いプロ棋士を紹介されるケースだ。弟子の棋力が奨励会受験にふさわしくなったところで推薦し、合格後は棋界における身元保証人のような存在になる。

 奨励会で対局する場所は東京か大阪の将棋会館。二段まではどちらかの将棋会館で指すことになるため、地方在住の俊英たちは、月に数度親に東京・大阪まで送ってもらうか、どちらかの拠点近くで一人暮らしをするなど生活を考える必要がある。親元から遠く離れた場所で一人暮らしをする奨励会員の支えになるのはやはり師匠ということにもなるだろう。

◆内弟子制度はほぼない

 かつては棋士の卵が師匠の家に住み込む内弟子制度もあったが、現在は内弟子制度はなくなったと言ってもいい。それでは師匠は弟子にどの程度将棋を教えるのかといえば、それも人によって様々だ。杉本七段は藤井四段とよく指したということが伝わっているし、森下卓九段は師匠の花村元司九段(故人)とは1000局以上指したという。逆に少ない場合は、ほんの数局指すだけ、ということもあるようだ。

 棋士や奨励会員は勉強会・研究会といって少数でグループを作り技術を磨くことも多い。また、詰め将棋を解くといった勉強方法では他者は必要なく、実戦の数をこなすのであればネット将棋もあるため、将棋の勉強方法には事欠かない時代という背景もあるのかもしれない。

 森信雄七段はかつて自身のブログで「弟子が結果をだしてくれるのが何よりうれしい。でも本音は人間として弟子が育ってくれることがもっとうれしい。」と語っている。直接将棋を指すかどうかはさておき、師匠の弟子への思いが詰まった一言ではないだろうか。

◆将棋界では同門や師弟でも公式戦で戦う

 相撲では同じ部屋の力士が本場所で戦うことはなく、師匠は引退した力士であるため、師匠と弟子が戦う事ももちろんない。しかし将棋は、先日加藤一二三九段が70代後半で引退したように競技人生が長く、また同門だからといって対局できないという規定もない。いったんプロになれば個対個のガチンコ勝負なのだ。従って兄弟弟子の対決もあれば、師弟対決もある。師弟対決はスポーツではまず味わえない、文化系競技ならではの醍醐味だろう。

◆藤井四段の「恩返し」はいつか

 弟子が師匠に公式戦で勝つことを将棋の世界では「恩返し」という。藤井四段がいつ杉本七段に恩返しをするのか。そしてそのときの杉本七段・藤井四段はどのようなコメントを残すのか。将棋ファンとしてはその瞬間を見逃さないようにしたいものだ。【奥野大児】

(C)AbemaTV

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