今日、衆議院が解散する。10月10日の公示を控え、メディアは本格的な"選挙モード"に突入する。放送倫理・番組向上機構(BPO)が、テレビの選挙報道で求められる公平性は"量"ではなく"質"であると提言してから迎える初の総選挙。26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、テレビの選挙報道のあり方を考えた。
先週、自民党の二階俊博幹事長が「総理から解散を検討していると伝えられた」と明かしたその日から、報道機関はすでに"準選挙モード"に入っていた。テレビ各局の放送を見てみると、山尾志桜里議員が不倫疑惑の釈明会見で出馬することを表明すると、同じ選挙区から出馬予定の候補を紹介。同じく、暴言問題で自民党を離党した豊田真由子議員を扱ったニュースでも、出馬予定の候補が紹介されていた。
テレビの選挙報道の在り方は、放送法をベースに考えられている。第4条には「政治的に公平であること」「意見が対立している問題についてはできるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と謳われている。
■「"公平"かつ"中立"」が求められるテレビの選挙報道
メディア論が専門の上智大学の音好宏教授は「電波は希少で、誰でもが放送局になれるわけではない。事業者それなりに見識を持って展開する必要があるだろうということ」と話す。これに対し、新聞報道は前提がやや異なる。「資本主義国の多くの新聞は、『自分たちは主張もするけれども、まずは事実を正しく伝えることをやる』というスタンス。"公平"ではなく、"公正"に報道するということ」(音教授)。
例えば選挙期間中、主要な政党が公平に紹介できるように、テレビでは同じ時間になるよう、バランスを取っている。安倍晋三総裁の演説を10秒取り上げた場合、他党の代表による演説の映像も10秒ずつに編集して放送。それ以外の政党の政策も紹介する時間を割く。このように、テレビの選挙報道は、放送法や公職選挙法に基づいて"公平"かつ"中立"であることが求められているのだ。
音教授によると、量の公平性を担保しようとするテレビの選挙報道の背景にあるのは、「候補者の露出度と投票結果が連動しているという漠然なイメージがあるから」だという。
「接触量が多ければ多いほど、その人に対する認知、記憶が深まり、次第に好きになっていくという『単純接触モデル』の考え方がある。一方、好きなタレント調査の上位にいる人は、嫌いなタレントの上位にもいるという傾向があることにも注意しなければいけない。選挙報道でも同じような問題は起こっていて、露出が多ければそれだけネガティブなイメージが付く可能性がある」(音教授)。
■"13戦13敗"マック赤坂氏「やはり"量"が一番大きな平等の物差しだ」
しかし、21人が立候補した去年の都知事選では、主要3候補ばかりが報道され、当選の可能性が低いとみられる、いわゆる「泡沫候補」たちについては、顔写真や名前が紹介される程度にとどまっていたことが議論を呼んだ。候補者たちが声を上げたこともあり、今年2月、BPO(放送倫理・番組向上機構)が意見書を提出。「政策の内容、問題点など有権者の選択に必要な情報を伝えるためには、取材で確認できた事実を偏りなく報道する姿勢が求められる」として、テレビの選挙報道で求められるのは、"量"ではなく"質的公平性"との見解を示した。
BPOの川端和治委員長は会見で「有力でない候補者がたくさん出た関係でほとんど報じられなかったということで『おかしいじゃないか』『公平性を害している』という意見がたくさんあった」という意見が視聴者から寄せられたと指摘。その上で「公職選挙法は、選挙に関する報道と評論についての編集の自由を認めている。編集の自由があるのですから、形式的な平等性を要求しているわけではない。そこでの公平性は、必然的に"質的"な公平性になる」として、公職選挙法上の問題はないと説明した。
昨年の都知事選で落選したマック赤坂氏も、声を上げた一人だ。これまで13戦13敗と全敗。一見ふざけているよう捉えられかねないコスプレも、自身を「泡沫候補」として扱う報道機関への反発を込めたメッセージだという。今回、衆議院選の立候補はしないというが、「"質"ということで逃げている。テレビは平等な報道が義務だが、報道の自由をあまりにも強調しすぎている。やはり"量"が一番大きな平等の物差しだ」と憤った。
■"質的公平性"は実現可能なのか
報道機関であるテレビ朝日系列のANNでは、BPOが提言する"質的公平性"をどう受け止めているのか。選挙本部は「選挙報道は機械的に放送時間の配分で考えるものではない。むしろ放送時各候補者の訴えている内容を的確に正確に視聴者に伝えることが大事だと考えています」としている。
音教授は、質的公平性を担保するためには、有権者はひとりひとりが自分で考え、投票するものだという前提に立ち、できるだけ多様な切り口や争点を提示することが求められているとして、昨年の都議選のテレビ報道では、その機能が弱かったと指摘する。「(1)事実をちゃんと伝えなさい、(2)説明・論評をちゃんとしなさい、(3)主張をしなさい、ということがメディアには求められている」。
実際、多チャンネル化やネットの普及で選択肢が増える中、それぞれのメディアが主張を前面に押し出し、有権者はトータルとしてバランスが取れれば良いとの意見もある。ただ、音教授は「自分の好きなものばかりを見る"選択的接触"の悪影響を指摘する。アメリカでは、ケーブルテレビの普及による多チャンネル化を背景に、1987年にFCC(連邦通信委員会)が放送における"公平原則"を破棄。それぞれのテレビ局が主張を前面に出している。大統領選や、トランプ大統領を巡る極端な報道の問題は記憶に新しい。
今回の総選挙で、"質的公平性"はどのようにバランスを取って、実現されるのか。各社の報道にも注目だ。
※AbemaTV『AbemaPrime』では「総選挙は自分の意志を表明できる民主主義最大の機会であり、特に今回は 選挙権年齢が18歳に引き下げられてから初めて政権選択の選挙でもある。まずは選挙そものもに興味を持つこと、そして少しでも投票のための有益な判断材料を伝えることを目指し、特集を企画していく。