日本中が大注目した連勝記録を止めた男がいる。将棋のプロ棋士、佐々木勇気六段(23)だ。中学生棋士・藤井聡太四段(15)がデビュー以来、無傷のまま連勝の新記録となる「29」を樹立した後、節目の30連勝をかけた一局で、先輩の意地を見せて勝利した。「あれだけ注目される対局は、これからの棋士人生の中でもないかもしれない」と語った佐々木勇気六段は、断固たる決意を胸に対局に臨んでいた。
将棋ファンはもちろん、一大フィーバーに巻き込まれた人々も注目したあの一局から早3カ月。「藤井フィーバー」真っ只中だった7月2日の対局には、100人を優に超える報道関係者が対局の場となった東京都渋谷区の将棋会館に詰め掛けていた。佐々木勇気六段は「あの当時は対局に集中していたので、そこまで周りが見えていなかったんですけど、後で写真とか見ると、100人以上の方に囲まれていて、よくあれで私も堂々としていたなと思います」とほほ笑んだ。何百、何千と対局を重ねたベテラン棋士であっても体験したことはないであろう、異様な雰囲気での対局。「あれだけ注目されることは、これから先もちょっとないかなって。とてもいい経験になりました」と、当時の熱気を振り返った。
勢いだけなら、無敗のまま突き進んでいる藤井四段に分があった。負けを知らない強さ、連日増える報道陣の数にも動じない落ち着き。さらには節目の30連勝達成を願う周囲の雰囲気。全てを退けるために、とにかく準備した。藤井四段が29連勝を達成した対局場には自ら足を運び、熱狂ぶりを肌で感じ取った。公式戦のサンプルが少ない中で藤井四段を研究し、さらに自分の力を出せる戦型を煮詰めていった。「結構追い込まれていましたよ。自分が考えてきた将棋がさせると、自然といい内容になるかなという風に思っていました。藤井さんの時は、研究していたことを盤上に表すことが出来ました」と、手応えのあった対局だった。
初対決を制した佐々木勇気六段だが、20代前半以下の若手世代による出世レースは今後もずっと続いていく。一歩抜け出すためには、佐藤天彦名人を軸とした30前後の世代、さらには羽生善治二冠を中心とした40代の“羽生世代”など、いくつもの世代の壁を破っていく必要がある。「トップ棋士の先生と(タイトル戦の)番勝負を指したいですね。そこまで勝ち抜くのが大変なんですけど、そこはやはりもう一度自分を追い込んで上り詰めたいところです」と、常に頂を意識しながら戦っている。
連勝記録を止めた直後は「イケメン棋士」として各メディアに取り上げられた。次に大きなニュースになるのは、佐々木勇気六段の「六段」の部分がタイトル名に変わる時だ。
◆佐々木勇気(ささき・ゆうき)六段 1994年8月5日、埼玉県三郷市出身。石田和雄九段門下。棋士番号は280。2004年9月に奨励会入り。2010年10月1日に四段昇格を果たしプロ入り。棋風は居飛車党で、「勇気流」と呼ばれる戦型を使うこともある。AbemaTV「若手VSトップ棋士 魂の七番勝負」では、第2局(10月7日放送)で藤井猛九段と対戦する。
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