個人技をベースとしたショートパスをつなぐ〝シズガク・スタイル〟に憧れる選手が集まり、いつの時代も高校サッカー界で話題を呼んでいる名門だ。そのプレーで多くのサッカーファンを魅了すると同時に、数々の選手たちが、プロの門をたたいてきた。
50歳で現役を続ける〝キング・カズ〟こと三浦知良も、高校1年の途中で単身ブラジルへと渡るまで、シズガクに通った。そのカズの兄・泰年や、鈴木正治、近年では川崎フロンターレの大島僚太など、シズガクは多くのサッカー日本代表選手を輩出してきた。
そんな伝説的な高校で同じ時間を過ごした2人の選手が、10年以上の時を経て、フットサルのトップリーグ、Fリーグの舞台でチームメートとして戦っている。フウガドールすみだのキャプテン・諸江剣語と渡井博之、チームの大黒柱といえる選手たちだ。
渡井が3年の時、諸江が1年。ハイレベルなライバルとの競争に打ち勝ってレギュラーの座をつかんだ2人は高校卒業後、奇しくも別々の場所でフットサルと出会った。
地元・静岡県のXEBRA SHIZUOKAの一員として東海フットサルリーグを戦っていた渡井は、ボールを持てば誰も奪うことができないほどのテクニシャン。プロチーム、名古屋オーシャンズの監督を務めたこともある名将・眞境名オスカーが率いるチームで、絶対的な存在感を放っていた。「あいつは天才だよ」。周囲はみな、口々にそう話していた。
諸江は、高校卒業後に地元・石川県金沢市に戻り、北信越フットサルリーグのINDIGO SCORPION 1969でプレーしていた。そして2006年、地域リーグの日本一を決める大会で関東の強豪・プレデター(現・バルドラール浦安)を相手に圧巻のドリブルを披露してみせると、そのプレーが高く評価されて、プレデターからのオファーを受けた。
2人は2009年に一度、すみだの前身・FUGA TOKYOで再会している。渡井は、さらなる高みを目指して静岡から上京。一方、Fリーグで結果を出せずにくすぶっていた諸江は、須賀雄大監督に声を掛けられた。渡井が、デウソン神戸や浦安でプレーした後、須賀監督の熱烈なオファーを受けて2015年にカムバック。2人は2回目の再会を果たした。
そして今、彼ら2人は、すみだの絶対的なコンビとしてピッチで躍動している。
「コンビ」といったが実は、2人が同時にピッチに立つことは多くない。彼らは、守備の要であり、攻撃の起点となるフィクソというポジションを任されている。フットサルでは、フィールドプレーヤーが4人1組となる〝セット〟を交代しながら戦うことがセオリーとされ、渡井と諸江は、別々のセットのフィクソとしてプレーしているからだ。
シズガク出身のテクニシャンでありながら、渡井も諸江も、テクニックだけではない重要なスキルでチームを率いている。相手の屈強なアタッカーを1対1でつぶす守備力と攻撃時の采配、ゴールへと向かう推進力。「フィクソの出来が勝敗を左右する」とまでいわれる現代フットサルにおいて、〝守備力の高い最強の攻撃者〟として君臨している。
諸江は先輩への絶大な信頼を口にする。「ワタさんがいることで、思い切ってプレーができる」。ピッチに一緒に立っていてもそうでなくても、2人の間には固い絆がある。
諸江はこうも言う。「同じフィクソとして、相棒のような感覚がある」。
「足元の技術に秀でるテクニシャン」と「フットサル」という掛け合わせは、「日本トップレベルの2人のフィクソの醸成」という化学変化を導き出したのだ。
そういえば、今月からテレビドラマ『相棒』の新シーズンが始まる。水谷豊と反町隆史が絶妙なコンビで、次々と難解な事件を解決していく大人気シリーズだ。渡井と諸江。時を経て同じピッチで躍動する先輩と後輩の姿が、そんな〝相棒〟とリンクする――。
Fリーグを席巻する相棒は今シーズンきっと、最高にドラマティックな結末を見せてくれるだろう。渡井と諸江、シズガク出身の2人のフィクソから、目が離せない。
2人を擁するフウガドールすみだは13日の第21節、11位のデウソン神戸と対決。その模様はAbemaTV(アベマTV)のSPORTSチャンネルで19時15分から生中継される。
文・本田好伸(futsalEDGE)