10月22日のDDT・後楽園ホール大会は、この秋に行なわれた「ドラマティック総選挙」の結果を受けてのマッチメイクで試合が組まれていた。
(チャンピオンとしての成長をあらためて誓った竹下 12.14後楽園大会ではコルト・カバナとの防衛戦が決定)
メインイベント、団体最高峰であるKO-D無差別級のタイトルマッチは王者・竹下幸之介に総選挙個人部門1位の男色ディーノが挑戦。身体能力も技術も持ち合わせた22歳のチャンピオンに、レスラーとしては亜流、異端だが“文化系プロレス”の象徴であるディーノが挑むという構図だ。それは竹下にとって試練であり、洗礼とも言えた。
序盤から唇と股間を執拗に狙う男色殺法を炸裂させ、ディーノは竹下を苦しめていく。だが竹下も単なる正統派レスラーではない。彼がDDTに入門するきっかけになったのは、初めて見に行った会場で入場時のディーノに「ファーストキスを奪われた」こと。DDTのレスラーとして、ディーノとの「キス合戦」にも応じていく。
男色ドライバー、リバースえび反りジャンプ(ムーンサルトプレス)を繰り出すなど、ディーノは勝つためにあらゆる技を繰り出していったが、竹下はそれをすべて受け止め、観客の「ディーノ」コールを断ち切るようにクロスアーム・ジャーマンでフィニッシュ。9度目の防衛は史上最多記録だ。
(試合後のディーノは放心状態 しかし「沈んでる暇はない」とプロデューサーとして新たな策を練り始めた)
総選挙1位という「民意」、すなわち観客の期待を一身に背負って竹下を追い詰めたディーノは、涙を見せながら「結果以外は完勝」という言葉も。今後は団体プロデューサーとして「竹下のベルトをひっぺがしにいく」と言う。もはや実力的には図抜けた状態と言える竹下に試練を与え続けることが、DDTを面白くすることだと考えているのだろう。
一方、王者の竹下は勝ってなお「悔しさ」を口にした。総選挙7位という結果、また試合を前にボディビル大会に出場し、結果が関東12位という結果だったことも悔しい。この日の試合でも、ディーノ相手に防衛はしたが「本当の意味で勝ったとは思ってない」。存在感で超えたわけではないということだ。その悔しさを、これから前面に出していきたいと竹下は言う。これまでは、悔しさを表に出してこなかった。「高校生で武道館でデビューさせてもらって、期待の新人と言われ続けて、最年少でベルトを巻いて。普通の人が抱く感情を持ったらダメなのかなって」
能力の高さ、エリートというイメージの陰で、竹下は自分だけの悩みとともに闘ってきたのだ。DDTはインディー団体であり、選手たちは雑草集団。業界におけるチャレンジャーだ。そんな中で、高校時代に陸上で実績を残し、鳴り物入りでデビュー、現在は日体大の学生でもある“アスリート”竹下は逆の意味で異色すぎたのである。
しかし竹下には竹下なりの“DDTらしさ”がある。ディーノ戦、竹下はフィニッシュ直前にショートタイツを脱ぎ捨てた。それが「僕が好きになったDDTの形」であり「意味はまったくないけど、力がみなぎりましたね」。そして履いていたアンダータイツはボディビル用のものであり、技に入る前のポージングで見せた筋肉は、まさに竹下にしかない武器だ。
そもそも、極度の減量も必要になるボディビル大会に、タイトルマッチ1週間前に出場するということ自体がメチャクチャであり無謀であり、DDTにふさわしい表現を使えば「デタラメ」だ。これまでのDDTらしさを踏襲しつつ、しかしそれをなぞるだけでなく独自性をいかに作ることができるか。そこに竹下の挑戦があるのだ。
竹下幸之介は「悔しさ」も力にかえて、新しいDDTの姿を作ろうと必死になっている。それは“文化系”なだけでなく肉体の迫力も、技の説得力でも他団体に負けない、トップ団体としてのDDTなのだろう。
文・橋本宗洋
「DDT Special 2017」濃縮編集版は10月27日(金)夜6時~AbemaTVで放送