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 米IBMのAI「Watson」の無料提供が間もなくスタートする。すでに生活のあらゆるところに導入されているというWatson。日本でも三井住友海上火災保険がコールセンターに利用しており、過去3年分の対応履歴データを記憶・学習させただけでなく、問い合わせ内容をリアルタイムで分析させることで、ホームページ上の「よくある質問」に解決案を提示。問い合わせに先回りするかのような対応が可能となり、電話の件数を減らすことに成功した。それだけでなく、顧客の要望をリアルタイムで聞き取り、オペレーターに対し最適な対処法を提示する機能も充実させているという。

 また、日本航空では、Watsonが得意とする人間が日常的に使う言葉を理解する機能を活用、観光案内バーチャルアシスタント「マカナちゃん」を開発した。利用者との会話を通して日々学習しながら、ハワイのおすすめ情報を提供している。

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 Watsonは医療分野においてもめざましい実績を上げている。膨大な量の論文や臨床データ、症例、カルテのデータを学習、患者のデータと照らし合わせることで、医師に対し最適な治療法を提案。2016年には東京大学医科学研究所に導入されたWatsonが、経過が思わしくない血液のがんの女性を診断、わずか10分で病状を解析して治療法を提示。このとき、Watsonは優秀な医師たちでさえも気づかなかった変異の可能性を示唆。これに沿って医師が対応することで適切な治療が可能となり、女性は快方に向かったという。

 Watsonは「情報をインプット」「関連付けて整理」、そして「アウトプット」するのが特徴で、人間を学習し、理解することに長けているという。2011年、Watsonはアメリカのクイズ番組に出場、従来AIが苦手としてきた言葉のニュアンスの理解をして見事優勝している。この番組は歴史、文学、化学など幅広いジャンルの問題のほかに、言葉遊びやとんちの理解が必要な問題が出題されていた。

 AIと言えば「Google Home」やiPhone「Siri」なども知名度が高い。それらとWatsonが異なる点について、電気通信大学大学院の栗原聡教授栗原氏は「どちらかというとGoogleのようなタイプは問題解決型というよりは、データから学習して、何かしら答えてくれるというタイプのもの。つまり、IBMの考え方の方が人間に近い。また、IBMの社員が導入の現場に行って、どういう風にWatsonを使うかまでケアしている」と話す。

 「IBMは人のために何かをするという哲学を持っている。"コグニティブ(認知)・コンピューティング、"コグニティブ・ビジネス"といって、人間のためにコンピューターが真剣に考えて答えを出すという立場。Googleはあくまでもデータを溜めて、そこから抽出してサービスしましょうというところに留まっている」(栗原氏)。

 1911年に創立されたIBMは1952年に初の商用コンピューターを開発、1960年には航空券自動予約システムも開発した。さらに1982年は商業用ロボットシステム発表するなど、先進的な企業としてしられた。しかし、2004年にパソコン事業を中国のLenovoに売却して以降、一般の消費者とは遠い企業になってしまったような印象も受ける。

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 そんなIBMがWatsonの個人も利用可能な方針に踏み切った背景には、ライバル企業の急成長があるのだという。「今のAIはデータの量が多ければ多いほど性能が高められる。GoogleやFacebookは、日々膨大なユーザーが使っているので、個々人のものも含め、データが勝手に溜まっていく。昨今、競合他社がビッグデータによる成功例を出してきていることを無視できなくなってきたのではないか。IBMとしては、企業から収益を上げるビジネスモデルもあり得るが、無料にすることで色々な人が使うようになり、労せずしてデータを集めるという方向に舵を切ったのではないか」(栗原氏)。

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 今回、IBMが開放するWatsonの基本機能には、会話、翻訳、文章を基にした性格分析、対話を通じた意思決定支援、さらには文章を基に感情や社交性を判断といったものもあるという。

 Watsonの開放により、AI市場のさらなる活性化が期待されるが、それによって、わたしたちの暮らしをどのように変えてくれるのだろうか。AIの発達した未来では、人間の仕事が奪われてしまうのではないかという議論もある。

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 栗原教授によると、AIはパターンのある物事を処理するのに長けており、過去の作家の文体の再現など、さまざま可能性を提示している。ある大学では漫才のパターンをAIに学習させ、特定のキーワードを入力すると、それを使ってオチまでついた漫才を作成してしまうのだという。その話を聞いたパンサーの向井慧は危機感を抱いたといい、「生身の芸人がスベって焦ったときの汗なんかも見てほしい」と苦笑する。

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 栗原氏は「今の人口知能、コンピューターには得意なところと不得意なところがある。例えば、電卓で計算をするが、計算能力を奪われたとは思わない。便利だから使っている。膨大な情報や正確な計算、病気の診断もそうだが、一人の人間が一生のうちに触れることのできる情報量には限度がある。読める本の数もそう。ところがコンピューターには限度がない。しかも寝ることもない。人が扱えない大量のデータから何かを見つけるのが得意。しかし、それはあくまでも淡々と計算するなどの単純作業や、規則的に何かを見つけなさいということが得意だということ。単純に洋服を仕立てるということであれば、ロボットを使って大量生産した方がいいが、今も手縫いのスーツは人気が高いし、人がやったからこそ出る"ムラ"は、置き換えが利かない。AIが不得意なところは人間がやるというように、すみ分けができてくると思う。仕事が奪われるというよりは、役割が分化されていくのではないか」との考えを示した。

 さらに栗原教授は「ただ情報をやり取りすればいいとうクールな考えもあるが、人があっての世の中なので、無機質な会話には温かみはない。例えば冗談や、間合いのようなものはまだまだ難しい。AIが非人道的な事を言ってしまったという事例もある。そういう事をどう教え込むか。ここのところは課題にはなる」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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