膝の鷲足炎(がそくえん)のため痛み止めを飲んで出場した全日本選手権で樋口新葉は2位となり、目標だった四大陸選手権と世界選手権の出場権を初めて手にした。

(写真・アフロ

 ただ、シーズン前半でひとつの目標を達成しそこで緊張感が一度途切れてしまったこと、そして怪我の治療もあり、四大陸選手権は9位、世界選手権は11位という結果に。ただ、樋口はそこで終わらなかった。

 その悔しさを抱えてきつい練習を重ね、国別対抗戦には「もう大丈夫」と思えるまでになった。ショートもフリーもノーミスで、その2つの得点を合計すると216.71点という高得点を出し(※国別対抗戦は、ショートとフリーの合計点で競う大会ではない)、そこでひとつの手応えを得た。

 その後のシーズンオフ。ホームリンクが氷の張り替えのために2カ月半閉まっていたため、関東のリンクを転々として練習を重ねた。「ジャンプばかりを意識しないでプログラム(全体)に集中できるように、まずはジャンプをきちんと跳べるように」と、練習時間が限られていたこともあり、練習ではとにかくジャンプをミスしないことに努めた。

 そうした練習とリンクの隅々まで滑りきるスピーディで力のあるスケート、表現に力を入れた昨季の滑り、そういったものが融合して、今季の樋口は力強く躍動的で魅せるスケーターになっている。

 特にフリー『スカイフォール』の、ところどころにある見せ場がとてもいい。ちょっとした視線の使い方や、ステップの中で独特の間を取る感情の表出、左足をあげてあおむけに近いポーズで進んでいくスパイラルのポーズが変形していく味わい。そういうものが散りばめられていることで、プログラムが進むたびにどんどん見るものを引き込んでいき、シーズン序盤ながら、すでに「もう一度見たい」と思わせるプログラムになっている。

 9月のロンバルディア杯では、ノーミスの演技で217.63点となりショートと総合でパーソナルベストを出し、グランプリシリーズ初戦のロシア大会では、フリーでジャンプがひとつ2回転にはなったが、勢いのある演技を見せた。

 順位こそ3位だが、207.17点。昨季まで出すことのできなかった200点台を続けて出している。オリンピック代表の2枠に入るために「どの試合でも200点超えして表彰台に乗る」ことを掲げる今季の彼女は、その目標を大きく上回る結果を残している。さらに、両大会ともフリーの演技構成点で、9.0を出しているジャッジもいることは、表現を磨いてきた彼女にとってうれしいことだろう。

 平昌オリンピックへとつながる昨季、思い描いていたような成績を残せず、自身を「崖っぷち」にいると認識し、厳しい状況や苦しさから逃げずに真正面から向き合った。それが今季、高評価につながってきた。

 今季の樋口の演技からは、並々ならぬ覚悟が伝わってくる。何があっても平昌オリンピック出場を手にする……その切実な思いが、自信とともに感じられる。ちょっとやそっとでは揺るがない、とても確かな感覚がある。

 樋口にとって次の中国杯はすでに今季のグランプリシリーズでは2大会目となるため、その成績次第でグランプリファイナル進出が可能になる。中国大会も含めて4戦残っているのでまだどうなるか見えないが、グランプリファイナルに進むためには、中国大会で優勝か2位には入っておきたい。

文・長谷川仁美

 樋口新葉が出場するグランプリシリーズ・中国大会の模様はAbemaTVで4日・5日に放送される。

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