Krush -55kg王者の寺戸伸近が、大激闘を制してタイトル防衛を果たした。
11月5日の後楽園ホール大会、寺戸に挑戦したのは久保賢司。4月のK-1スーパーバンタム級王座決定トーナメント準決勝で敗れた寺戸にとってはリベンジ戦だ。両者のトータル戦績は1勝1敗だから、今回は決着戦でもある。
K-1を最後にジム経営、指導者に専念しようと考えていた久保だが、相手が寺戸だったために試合を受けたという。リベンジを達成したと思ったら倒しきれていなかった。それなら「心を折ってやる」というモチベーションだ。さらには「心の中にあるのは恨みや憎しみ」、「(力の差を)分からせてやる」とドス黒い心情を隠そうともしなかった。
そんな思いが強すぎたか、久保は序盤、動きが固かった。それに対して百戦錬磨の寺戸は落ち着いてジャブ、ローをヒットさせる。確実に久保の出足を止め、得意のパンチを封じながらダメージを与えていく作戦だ。
2ラウンドになると久保のローも効果的に決まり、最終3ラウンドになると完全に久保ペース。パンチの連打で寺戸はダウン寸前に追い込まれる。それでも序盤のポイントは寺戸につき、判定1-0でドロー。延長にもつれ込む。この時点でダメージの大きい寺戸だったが、想像を絶する底力を発揮してみせた。
直前までフラフラだったにもかかわらず、的確なローキックが再び当たり始めたのだ。久保は前進を巧みにかわされ、ローで何度も体勢を崩す。今度は文句なしの判定で寺戸の勝利だ。
これまでも数々の激闘、逆転劇を見せてきた寺戸。そのキャリアに新たな1ページが加えられる名勝負だった。敗北ギリギリの延長戦で、闇雲に打ち合うのではなく的確にローキックを蹴る勝負勘と度胸はただごとではない。
「勝って格闘家人生が首の皮一枚つながりました」という寺戸は、K-1のタイトル挑戦にも意欲を見せた。一方、久保は「寺戸伸近あっぱれとしか言いようがない。ありがとうございました」とノーサイドを宣言。今後はやはり現役から退くというが、すでに選手育成やフィットネスとしてのK-1の普及に意欲を見せていた。大激闘は、両者にとって人生の分岐点でもあったのだ。
文・橋本宗洋