百折不撓。木村一基九段(44)の座右の銘だ。心を何度折られても立ち上がって闘う、という意味である。全ての将棋ファンから声援を受けている、といっても過言にはならない稀有な棋士だろう。
昨夏の王位戦七番勝負に挑戦者として登場したが、フルセットの末、3勝4敗で羽生善治王位(当時)に敗れ、悲願のタイトル奪取はならなかった。終局直後、主催紙記者から「残念ながら…」と問われた時、言葉を発することが出来なくなったシーンは多くの将棋ファンの共感を呼んだ。タイトル挑戦は6度目だったが、まだ奪取に至っていない。あと1局勝てば…というところまでも何度も達しているだけに、木村九段のタイトル奪取はファンにとっても悲願になっている。
1985年に奨励会入会。順調に昇級昇段を重ね、17歳で三段に。ところが、過酷を極める三段リーグでは何度も昇段を逃した。四段(棋士)昇段は1997年、23歳の時。後にタイトル挑戦者となり、A級まで駆け上がる棋士としては遅いペースだったが、プロになると覚醒したように大活躍を始める。
2001年度には勝率.836(歴代4位)、61勝(同4位タイ)を記録した。年度60勝は、現代のプロ野球の投手で言えば25勝するくらいのとんでもない数字である。あまりの勝ちっぷりで「勝率君」なるニックネームまで付いたくらいだ。新人王戦や朝日杯で優勝し、順位戦A級4期、竜王戦1組8期も経験。今後もタイトル獲得の期待が掛かる。
攻め将棋全盛と言える現代の将棋界で、受け将棋の代表的棋士として知られる。異名は「千駄ヶ谷の受け師」。耐え忍び、相手の攻めを受けつぶすスタイルは、どこか木村の棋歴とも重なり合う。「負けと知りつつ、目を覆うような手を指して頑張ることは辛く、抵抗がある。でも、その気持ちを無くしてしまったら、坂道を転げ落ちるかのように転落していくのだろう」という木村九段の言葉は、棋士ばかりでなく、我々も人生訓として心に留めておきたい名言と言えるだろう。
一方で、ひょうきんな性格の持ち主でもあり、初心者にも分かりやすく面白い解説はファンの心を捉え続けている。「魂の七番勝負」で対戦相手となる近藤誠也五段は小学生名人戦出場時、解説を務めた木村九段から「たくさん指したほうがいいよ」と声を掛けられたことに今も感謝している。いかにも木村九段らしいエピソードだ。ファンにとっては棋歴、棋風、人柄の全てが魅力的に映る棋士である。
◆木村一基(きむら・かずき)九段 1973年6月23日、千葉県四街道市出身。佐瀬勇次名誉九段門下。棋士番号は222。1985年に奨励会入り。1997年4月1日に四段昇格を果たしプロ入り。棋戦優勝は2回。2001年度の勝率8割以上(.836)、60勝以上(61勝)の同時達成は、羽生善治棋聖と2人だけの大記録。AbemaTV「魂の七番勝負」第7局(11月11日放送)で近藤誠也五段と対戦する。
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