将棋の羽生善治竜王(棋聖、47)が12月5日、渡辺明前竜王(棋王、33)との竜王戦七番勝負を制し、前人未踏の「永世七冠」を達成した。今期から追加された叡王には永世称号がないため、7つのタイトルすべてで永世称号を獲得したことになる。史上初の大偉業に、将棋界は中学生棋士・藤井聡太四段(15)が29連勝を達成した時以来の、大きな盛り上がりを見せた。
永世七冠、タイトル99期、優勝44回をはじめ、記録を挙げだせばキリがない。史上3人目の中学生棋士としてデビューし、以降30年以上戦い続け、何らかのタイトルをもう26年以上も保持し続けている。強さを表す形容詞が見つからない中、同じプロ棋士から出てくる感想は、探究心・向上心についてのものだ。
若手実力者の1人で、将棋ソフトによる研究に積極的な増田康宏四段(20)も、向上心に驚いた1人だ。
増田四段 本当に永世七冠は考えられないですね。あれだけタイトルを取ったら、普通なら満足しちゃって、(実力が)落ちていくと思うんですが、満足しないでずっと勝ち続けられるので、どれだけ向上心があるのかと思います。
増田四段が将棋ソフトに影響を受け、得意戦法としている「雁木(がんぎ)」は、羽生永世七冠も積極的に指すようになっている。かつては弱点があるとして、プロの間では指されなくなったものだったが、将棋ソフトにより再評価されたものを、第一人者は遅れを取らずに、しっかり受け入れ、学んでいる。
将棋界の第一人者となれば、対局以外の役割や仕事も多いもの。羽生永世七冠は、その最たる人物だ。当然、その状況はプロ棋士の中でも知られており、それゆえに「あんなに忙しいのに、いったいいつ将棋の勉強をしているのか」と驚く者も多い。多数の対局に加え、タイトル戦ともなれば全国各地を飛び回る。2日制の対局もあり、47歳という年齢を考えても、1年通してベストパフォーマンスを維持するのは難しい。そのマイナスポイントを補うべく、時間を捻出しさらに将棋を研究する。これが長年、トップクラスの実力を維持している原動力だ。
2017年は、人工知能(AI)に佐藤天彦名人が敗れるという、将棋ファンにはショッキングなニュースもあった。だが、心のどこかに「羽生さんなら…」と思うファン、さらにはプロ棋士も少なくない。そう思わせる理由は、天賦の才だけでなくそれをさらに磨き上げる努力が知られているからだろう。
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