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 14日、秋田市に北朝鮮のものと見られる木造船が漂着、1人の遺体が発見された。秋田海上保安部によると、18日に木造船を重機で吊り上げたところ、船の下からあらたに2人の遺体が見つかったという。海上保安庁のデータによれば、こうした船の漂流・漂着は今年すでに95件にのぼっており、記録が残っているこの5年間で最も多いペースとなっている。そのほとんどは全長約10m程度の小さな木造船だ。

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 北朝鮮の人々は、このような小さく古い船でどのように漁を行っているのだろうか。その実態を物語る映像が、能登半島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)にある大和堆(やまとたい)と呼ばれる漁場で撮影されていた。全国いか釣り漁業組合から提供されたその映像には、北朝鮮の旗を掲げた木造船や乗組員の姿も映っており、獲ったイカを大量に干しているのも確認できる。さらに木造船を率いる母船だとみられる、白く塗装された鉄製の大型船にもイカがびっしりと干されている。この母船とみられる大型船を中心に日本の海で組織的に漁をしている可能性も出てきており、北海道の松前小島では、漁民により小屋が荒らされる事件が発生した。

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 聖学院大学の宮本悟教授によると、好漁場であるこの大和堆には300~600隻の船が来ているのだという。木造船と共に来ている"母船"とみられる船について宮本氏は「工船と呼ばれるもので、船の中で缶詰とか冷凍ができるシステムがあるもの。2014年にはじめて遠洋漁業の会社ができて、どうやらここが工船を持っているようだ。大半の船は木造船だけで船団を組んでやって来るというスタイル」との見方を示した。

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 「以前は大和堆のことを知っている漁民はほとんどいなかった。2013年に北朝鮮が漁業拡大政策をとった時に、たまたまある船がここでいっぱい獲れたことから情報が広まり、どんどん来るようになった。北朝鮮は排他的経済水域を設定しておらず、漁民にもその概念がなく、公海だと思ってやっているのだろう。日本側が取り締まりをしなかったので、問題ないという意識もあると思う。一般的に、貧しい国というのは穀物をまず何とかしないといけない。経済が発展するまで燃料が必要な漁業はできない。

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今、北朝鮮は経済成長で富裕層が生まれ、海産物の需要も増えている。そこでお金になるということで漁業に乗り出す人が増え始めた。今は漁業が儲かるとみんなが分かって、農民も季節労働者になってやるようになってきた。政府も漁業を経済計画に取り入れて、各水産業者にノルマを課すようになった。そうした金儲け目的の"にわか漁民"は日本沿岸にたどり着いて金目のものがあれば北朝鮮に持って帰って売りたいと思うだろう。その辺りは気をつけないといけないし、そのためにも日本海に入ってきた北朝鮮の漁船はとにかく追い返す努力がしばらく必要になってくる」。

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 北朝鮮では「冬期漁獲戦闘」と称し、朝鮮労働党が示す漁獲量目標を達成するため冬場でも積極的に漁に出るように呼びかけているという。「はっきりと数字が出ているのは軍傘下の水産企業で、1隻あたり1000トンを1年間で獲ると金正恩自らが設定した。日本の漁船でもそこまで獲らない。達成しないと給料が減る」。

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 船と軍との関係については「全てではないが、ある。元々、北朝鮮の漁業拡大政策は軍の下にある水産会社が大きな業績を上げ、それを金正恩が褒め讃えて始まったもの。例えば、松前小島に現れた船には第854軍部隊と書いてあり、軍の下にある水産会社の船だと分かるが、854軍部隊は空軍なので、漁業とは関係がない。しかし、ここでの儲けは軍人たちの給料にも反映され、アルバイト的におカネが儲かる。北朝鮮の軍人は自分たちで自分たちの給料を稼がないといけない」と宮本氏は説明する。

 こうした事態を受け、海上保安庁は現場の状況を把握し的確な指示を出すため、巡視船2隻に撮影した映像を、リアルタイムで伝送できる態勢を整えることを目指している。しかし、対応は十分とは言えないようだ。

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 宮本氏は「EEZの防衛はまず県の警備艇がやり、それを水産庁の警備艇が補助する。これらは武装していないので、『ダメですよ。出ていってください』と言うことしかできない。これで手に負えなかったら海上保安庁に助けを求める。海上保安庁は水をかけたりして、密漁の場合は獲ったものを没収して、排他的経済水域(EEZ)の外まで送り出して解放する。警告は超えているので攻撃の部類には入るが、武力で追い返すということが想定されていないのが日本の状態」と指摘する。

 「もともと、東アジアでは日本だけが漁業ができた。だからこうした危機を想定しておらず、必死になったこともない。この問題の管轄は水産庁なので、外交案件ではなく外務省も関知していない。水産庁は自分たちが対処できなくなってはじめて海上保安庁に頼む。海上保安庁に頼むと自分たちの面目が丸つぶれになるので、できるだけ頼まない。それで問題がどんどん悪化していく」。

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 また、漁民に工作員が混じっているのはないかとの見方について宮本氏は「今回の漁民は少なくとも工作員ではない。あんな惨めなボロボロの船で来る工作員は逃げることもできないので工作員として何の役にも立たない。1999年に来た工作船は、海上保安庁の船で追いかけたが追いつけなかった。それくらいの高性能な船で来る」と否定的な見解を示した上で、「北朝鮮の漁業の中心はスルメイカとスケトウダラ。それを追い求めて漁船が日本海の奥まで入ってくることはあるかもしれない。海防という概念をみんなで共有していくことが日本の課題だと思う」と問題提起した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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