難関大学に合格するよりはるかに狭き門と言われるプロの将棋界において、それが当たり前の一家がある。塚田泰明九段、高群佐知子女流三段、そして塚田恵梨花女流1級という塚田一家だ。一人娘が自然と将棋に触れ、学び、女流プロになっても、3人の関係はさほど変わらない。AbemaTV「花の三番勝負 白黒はっきりつけましょう」の第2局に登場する塚田女流1級について、父・泰明九段は「流れでプロになると思った」と、大きな驚きもなかったようだ。
父の立場からは、愛娘を将棋の世界、さらには女流プロにしようと思ったことは、ただの一度もない。それでも「流れというか、この感じならプロになるのかなと思っていました。やっぱり将棋が好きですからね。しょうがないという感じです」と、ちょっと苦笑いした。両親がプロ棋士、女流棋士として戦っていて、当然自分も大きくなったらやるもの。そのぐらいの感覚だったのかもしれない。実際、アマチュア時代から女流プロを倒すことも多く、サラブレッドぶりを発揮してきた。
将棋界に限らず、父に「師匠」や「監督」、「上司」などと肩書きが付くと、親子の関係に変化が生じることがある。だが、塚田家はそんなことにも無縁だ。塚田女流1級は「師匠になっても、がらっと態度が変わることもなかったですね。親子としての時間の方が多くて、師匠として接するのは家の外ぐらい。今では師匠と呼ぶのも、だいぶ慣れてきましたけど」と、はにかんだ。
親子の関係が変わらないのは、将棋に関して放任主義だからかもしれない。塚田女流1級が「練習でも指してくれないし、聞けば教えてくれるくらい」と言えば、泰明九段も「指す本人が納得しないとダメだと思うんですよ。だから、ああしなさい、こうしなさいとは言わないようにしています」と、徹底的な指導とは正反対の立ち位置にいる。女流プロになってから成績が伸び悩んだ時も、手を差し伸べることは控えていた。
流れに沿って将棋の戦いの世界に飛び込んだ塚田女流1級。楽しみながら指していたアマチュア時代と、勝利を追及するプロの世界のギャップは強く感じている。「何も考えずに(プロの世界に)入ってしまったんですが、こんなに厳しい世界なんだなと思いました」。遠くから見守る師匠の前で、1人でもがいた末の勝利をもぎとった時、塚田家の父、母、娘の会話はさらに花が咲く。
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