両者が土俵に上がると、とても前相撲とは思えないほどの拍手と歓声が沸き起こると同時に、2人はカメラの無数のフラッシュを浴びた。まだ午前9時前だというのに、館内にはざっと見渡して100人以上の熱心なファンが取組表にも載っていない“大一番”見たさに駆けつけていた。

 西方から上がった納谷(なや=大嶽)は強豪校の埼玉栄高在学中で、先の10月に行われた国体少年の部で個人、団体の2冠を制した大器。“若貴ブーム”の時代に大活躍した元関脇貴闘力を父に持ち、祖父は優勝32回を誇る昭和の大横綱大鵬だ。188センチ、166キロという恵まれた体格はすでに“関取級”で、素質は申し分ない。

 一方、東土俵にはやや細身だが筋肉質のアスリート体型の豊昇龍(立浪)。鋭い眼光を放つ表情は、相撲ファンならずとも誰もが知っている元横綱を彷彿させる。彼の叔父は優勝25回、モンゴル出身初の横綱となった朝青龍だ。今も時々、メールが来て相撲のアドバイスをもらっているという。

 5日目の取組前に行われた前相撲。ともに2戦2勝同士の対戦となった一番は、豊昇龍が低く踏み込んで前廻しを狙うが、立ち合いの圧力でまさった納谷がもろ差しとなって一気に寄っていき、土俵際での相手の捨て身の首投げにも構わず、そのまま圧倒した。

 「気合いが入ったけど、しっかり相手も見えて落ち着いて取れた。足も前に出てよかったと思います」と納谷。突き押しが持ち味だが、この日は敢えて得意技を“封印”。しぶとい相手を捕まえての勝利だった。

 「相手が突っ張ってくると思って、下からいったけど差されたからヤバイと思った。今日はダメでした」と悔しさを露わにする豊昇龍。相手の考え抜いた術中に見事にハマってしまった。2人は過去に1度だけ対戦している。2年前、高校2年の時の関東選抜新人戦の決勝戦で顔が合い、この時も納谷の勝利に終わった。

 普段は互いに仲がよく、前日までは支度部屋で他愛のない会話を交わしていたが、対戦が組まれたこの日は挨拶を交わしただけ。土俵に上がる前から“火花”を散らしていた。奇しくも入門と同時に大きな期待と宿命を背負わされた両者。「(プレッシャーは)あまり感じない」と言ってのけた納谷と「次は序ノ口で当たるかもしれない。その時は絶対に勝ちたい」とリベンジを誓った豊昇龍との、この先10年は続くであろうライバルストーリーの幕は切って落とされた。

 同じ1988年3月場所で初土俵を踏んだ貴乃花と曙は互いに角界の頂点を極め、日本中に空前の相撲ブームを巻き起こしたように、ともに大横綱の血筋を引く若い2人も“ポスト平成”の土俵でどんな“大河ドラマ”を紡いでいくのか。1月21日の八日目、晴れて新序出世披露となった2人の、将来の楽しみは尽きない。【荒井太郎】

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