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 ついに開幕した平昌オリンピック。しかしその裏では、朝鮮半島情勢をめぐって各国首脳による熾烈な駆け引きが繰り広げられている。

■ペンス氏が晩餐会で取った行動の意味

 開会式直前の9日午後6時、文在寅大統領主催の晩餐会では、日本、アメリカ、韓国、北朝鮮、中国が一つのテーブルで顔を合わせる予定になっていた。しかし安倍総理とアメリカのペンス副大統領は既に乾杯が行われたあとで遅れて到着。安倍総理は北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長と言葉を交わした一方、ペンス副大統領は自国の選手団との面会を理由に顔を出しただけでテーブルには着かず、各国首脳と握手を交わしたものの、北朝鮮の金永南氏とは握手もしなかったと伝えられている。

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 9日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した新潟県立大学の浅羽祐樹教授は「文大統領としてはペンス副大統領に金永南氏の近くに座ってもらって、自然な形での"遭遇"、そして対話へ進むきっかけを提供したかったし、米朝間で核廃絶に向けての話も進めてほしかった。しかし新年に金正恩が"私の執務室のテーブルの上には核ミサイルのボタンがある"と宣言してから何も状況が変わっておらず、日米が圧力を強めている局面で北朝鮮と会うわけにはいかない。韓国は雪解けが進んでいるかのように思っているが、ペンス氏としてはそういうペースには乗らないという意味」と説明する。

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 「文大統領は前日、ペンス氏との会談で"米韓同盟が韓国の防衛にとって欠かせないものである"ということを確認したが、それと同時に"朝鮮半島に恒久的な平和を定着させたい、それはやはり対話で進めたい"という意向も示している。一方のペンス氏は北朝鮮の魚雷で沈められた韓国の船が展示されている記念館を見に行ったり、脱北者と会談をしたりと、人権問題も含めて北朝鮮に対して引かないという強いスタンスを示している。米韓のスタンスに温度差があることは明らかだ」。

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 元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏が「席順でミスして、首脳間が揉める原因を作ってしまった官僚は飛ばされてしまう。官僚にとってもそのくらい席順というのは大事なもの。今回の晩餐会のような、何が起きるかわからない、ある種ギャンブルのような案を作らされた官僚はストレスだったろうと思う。韓国は大統領制だけど官僚も強い国なので、こういう事態が起きることに韓国の官僚の方々はジレンマを抱えている」と指摘すると、浅羽氏も「外交は話の中身だけでなく、どの順番で喋ったかなど、形式もものすごく大事。まさに今回、金正恩氏の妹・与正氏が空港に到着した際、代表団長で北朝鮮ナンバー2であるはずの金永南氏が貴賓室で先に着席を促した。あの段階で、実質的な団長が与正氏であることがわかる」と応じた。

■正恩氏の妹・与正氏が南北首脳会談を提案か

 北朝鮮で唯一、正恩氏に直接ものが言えるとされる与正氏。韓国に到着後は笑みを浮かべ、柔和な印象をアピールしている。アメリカ財務省によると現在28歳で、役職は「朝鮮労働党中央委員会第1副部長」。8日の軍事パレードの映像には、正恩氏の背後から見守るような姿も捉えられている。

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 「『宣伝扇動部』という、対外宣伝、プロパガンダ、住民に対する引き締めをしている部門を牛耳っている。兄である金正男氏を暗殺、もう一人の兄である金正哲も追いやった正恩氏にとって、与正氏だけが腹を割って話せる人物なのだと思う」(浅羽氏)。

 与正氏は10日、北朝鮮高官団とともに韓国の文在寅大統領と面会、昼食を共にするという。アメリカのCNNは、与正氏が文大統領に平壌訪問を要請、8月15日に南北首脳会談を行うよう提案する可能性を報じている。突然の与正氏の訪問で演出される融和ムードに、韓国が飲み込まれているのではないかと懸念する声もある。

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 浅羽氏は「"鎖は一番弱い所で切れる"という格言があるが、北朝鮮からすれば、日米韓の連携で一番ぐらぐらしている韓国は切り崩しやすい。北朝鮮は年始からカードを小刻みに出し、オリンピックの2日前に金正恩の名代として与正氏を派遣、会議をセッティングした。"面談"となってはいるが、文大統領からすれば事実上の"首脳級会談"だ。金正恩とすれば、その場で南北首脳会談のカードを切ることで、韓国をさらに切り切り崩せる。日程については、与正氏の乗ってきた飛行機の便名『PRK615』は、2002年に初の南北首脳会談で共同宣言が採択された6月15日を示している。その日程か、2度目の会談を行った10月4日を提示する可能性もある」と話す。

 その上で「北朝鮮は挑発を一時停止しているような形になっているが、前日の軍事パレードではアメリカに届く火星15号を4つも並べ、"一発だけではない、準備できているぞ"と示した。根本は何も変わらない。そもそも韓国は北朝鮮の飛行機や船の乗り入れを制裁で禁じてきたのに、与正氏は飛行機でやってきたし、管弦楽団のコンサートを開くために万景峰号の入港を許した。さらに金正恩氏の肝いりで造られた『馬息嶺スキー場』という、児童の強制労働もあったと指摘される場所に選手を連れて行ってトレーニングさせるなど、中国も含め各国がタッグを組んで制裁の効果がようやく出つつあるところに自ら穴を開けていっている」と指摘。「(オリンピックは)本来、"アスリートファースト"であるべきなのに、ホスト国が自ら政治的な動きばかり。これがどこまで許されるのか」と疑問を呈した。

■日本の取るべき行動は

 8日午後、文大統領と日韓首脳会談を行った安倍総理。慰安婦問題について日本の立場を改めて強調するとともに、北朝鮮問題については「この瞬間も北朝鮮は核・ミサイル計画を執拗に追求し、開発を続けている。この現実を国際社会は直視しなければならない」と指摘。北朝鮮に対し最大限の圧力をかけることで文大統領とも一致したと語り、日米韓の結束を強調した。

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 ただ文大統領は「朝鮮半島に恒久的な平和を定着させるための糸口を作るためにも努力している」と対話を重視する姿勢も崩していない。

 浅羽氏は「ペンス氏と安倍総理は東京で会談をしたのにも関わらず、もう一度会って、日米の結束を文大統領の前で示した。晩餐会に遅れて行ったのも意図的なものだ」と指摘。「日韓には慰安婦問題もあるが、日米韓の三角形がしっかりとした正三角形で、しかもできるだけ近くなっていなければいけない。国内で批判がある中、安倍総理が文大統領と首脳会談をした最大の理由は、そこを改めて確認したかったからだろう」と話す。

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 そして、「韓国が北朝鮮に切り崩されそうになっているのは確かだが、それでも日米同盟、米韓同盟、日米韓の結束が揺らいでいないということを政治的に何度も示していく必要がある。日本でも極端な人はすぐに"蒸し返した、断交だ"と言うが、日本の利益のためにも冷静になって粛々とやっていくことが大事だ」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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