2月12日、東京・大田区総合体育館にて開催された「KNOCK OUT FIRST IMPACT」。那須川天心は、「最強の敵」との呼び声が高かったスアキムに3-0の判定で勝利した。那須川は、翌日の一夜明け会見で「試合が終わって楽しかった、というかホッとしたのが一番。煽りでは楽しみと言いましたが、怖い方が多かった」と本音を明かし、激闘を振り返った。
日本では「未知なる強豪」というイメージだったスアキムだが、紛れもなく最強の対戦相手だった。21歳という若さもさることながら、実際の階級は2階級上のスーパーバンタム級の選手。身長162センチの那須川に対して、172センチのスアキムは10センチの身長差、当然ながらリーチの差なども予想された。
序盤は、両者の気持ちの強さを感じさせる蹴り合いから始まった、足の長さを活かした強烈なミドルに「いきなりミドルを蹴ってきて、凄い蹴りでもらったらヤバイな、カットしようと思った。僕は蹴りを手で受け流すのが得意なんですが、それをしてられなかった」と振り返る。過去の試合では、高いディフェンス力から相手の蹴りをもらう場面が少なかった那須川が、5ラウンド通してスアキムの強烈なミドルを受ける場面は少なくなかった。
その一方で蹴りを受けつつも全体的には那須川の手数が終始上回る場面が多かった。相手のリーチを意識した距離の取り方や、スピードを活かしたパンチ、相手が前に出る場面でも落ち着き、下がりながらのパンチなど積極的に打撃を放つ場面が目立った。
1ラウンドこそ、両者の差はなくイーブン判定だったが、ミドルやローなどの蹴りがやや単発な印象だったスアキムに対して、常にコンビネーションを返し、相手の嫌がるフック気味のボディへの攻撃と顔面へと適度に散らしたパンチなど攻撃も多彩だった。3ラウンドの下腹部へのバッティングからの試合再開時にややスアキムの迫力ある攻撃に押し込まれ後退する場面もあったが、終盤で着実に手数をみせラウンドをとった場面や、4ラウンドでのややディフェンシブにペースを作るシーンなど、フルラウンドでの戦い方での那須川の上手さも際立つ立つ内容だった。ジャッジも納得の評価といえる。
本人も試合を振り返り「普通に勝ったなと思いました。試合中に思ったよりも攻撃をもらってなかったですね」と冷静に語る一方、「腕も痛いし、自分の蹴りと相手のカットでスネが腫れている。試合が終わってこんなに体が痛いのは初めて」と振り返り、対戦相手スアキムの攻撃力の凄まじさ、ダメージの大きさを物語る。
近年の試合では早い段階でのKO決着が多かった那須川天心の試合だが、より強い対戦相手との真っ向勝負で、現時点でのさらなる、ディフェンス力や技術力の成熟度を堪能できたという意味でも非常に見応えのある試合であった。
そんな那須川だが、試合後自身のブログ(「志高き道のり」Powered by Ameba)で言葉少なだがこのように振り返った。
「判定勝ちでしたが今までの試合で1番勝って嬉しかったです。スアキム選手、強かった。 勝てて本当に良かった。1人じゃ絶対に勝てなかった。チームの皆さん、応援してくれる皆さんの力をかりました。」
ここまで難攻不落の「神童」というイメージがつくと、時期尚早だが次の対戦相手も気になるところだ。「KNOCKOUT」の小野寺プロデュサーは「今後参戦して貰えるのであれば、那須川天心には中途半端な選手、茶番は一切必要ない。すでに打倒ムエタイという表現から、世界中が打倒・那須川天心に向いている。それ相応の選手を連れてきます」と宣言したが、今回の勝利は日本のみならず世界規模での「那須川天心包囲網」という表現も決して大げさではないほどのインパクトを感じさせた。キック、ボクシング、MMAさまざまな選択肢のある中でさらなる挑戦に期待が膨らむばかりだ。