近畿厚生局麻薬取締部は21日、海外でパーマ液などに利用されている「t-BOCメタンフェタミン」という液体を所持していたとして、大阪市の自営業・横谷勝己容疑者を覚せい剤製造予備などの疑いで逮捕した。
この「t-BOCメタンフェタミン」は化学処理を加えると覚せい剤に変化する物質で、今回押収された15kgからは末端価格５億円分に当たる約8kgが生成可能だという。これまで「t-BOCメタンフェタミン」の所持等は禁じられていなかったが、覚せい剤に変化することがわかったことから昨年12月から規制対象となり、今回が初めての摘発となった。
『アリエナイ科学ノ教科書』などの著者で、漫画などの科学監修も務めているマッドサイエンティストのドクタークラレさんは、今回の逮捕について"悪用を目的とした分子的な密輸"だと話す。「密輸後に化学処理で覚せい剤にしてしまうという技術で、新しいタイプ。去年ぐらいからようやく海外でも問題になりだした。物質を分子的にちょっと変えて、一時期の脱法ドラッグのように、オリジナルの麻薬に近い効果がある状態にする」。
また、そのような手法で生み出された薬物の数は急増していると言い、「科学的に捜査されるのであれば、科学的に逃れる方法を考えるというのが犯罪者の思考なのだろう。麻薬としての効果があるのか、どういう副作用があるのかもわからないようなものも大量に出てきている。この20年の間に追加された数を超える物質がこの１年くらいで新たに麻薬として指定されている」と話す。
「乱用が多くなったので規制されるようになったが、古典的に麻薬とされるものも元々は薬。製薬の研究でも、不思議な効果を持つものが必ず見つかる。それが論文にして発表されたものを参考に、マフィアお抱えのドクターのような人たちが手引きしているのではないか。ただ、分子構造を変えた物質がどういう効果を発揮するのか、作っている方も把握していないと思う。使用したことで病院に運ばれても、どういう治療をすれば良いのか医師もわからない可能性がある。非常に恐ろしいものだと思う」。
薬物に詳しい小笠原クリニック札幌病院の医師・横山隆氏は、混ぜ合わせて作られた薬物について「不衛生な場所で作られていることが多く、感染症の危険がある。数年で命を落とすケースも多い」と警鐘を鳴らす。
実際、海外に目を向けると、掛け合わせで生み出された違法薬物には、「クロコダイル」（ロシア）、「バスソルト」「フラッカ」「K2」（アメリカ）、「スパイス」（イギリス）などがあり、それぞれ激しい副作用を引き起こすことが知られている。「クロコダイル」は安価に薬物を作ろうと、咳止め薬にガソリンなどを混ぜたものであるといい、使用すると皮膚が溶け、ワニの皮膚のようになることからその名が付けられたという。また、アメリカでは「バスソルト」を使用した男が人の顔を食いちぎるという「マイアミゾンビ事件」を起こし、世界に衝撃を与えた。「バスソルトに含まれている成分は非常に複雑。痛みを全く感じなくなるというのと、幻覚を見たり、お腹が空いたりというのが合わさるらしく、結果的に撃たれたり、叩かれたりしても平気なゾンビのようになる」（クラレさん）。
薬物の恐怖はこうしたものにとどまらない。本来なら治療目的で使われる睡眠薬を使って眠気を我慢することで気分が高揚する「眠剤ハイ」になるとして、違法薬物代わりに乱用する若者たちが問題になっている。昨年７月には大阪で「眠剤ハイ」目的で睡眠薬を服用、意識が朦朧とした状態で車を運転した少年が事故を起こし、逮捕される事件も起きている。
合法で手に入れることのできる薬品の本来ではない使い方をしたり、組み合わせることで新たな薬物を出現させるなど、薬物をめぐる事情は深刻化しているのだ。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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