
冬季で日本が過去最多13個のメダルを獲得した平昌オリンピック。フィギュアスケート男子では、羽生結弦選手と宇野昌磨選手が日本初の金銀ワンツーフィニッシュ。スピードスケート女子500mでは、小平奈緒選手が同種目で日本人初の金メダル。高木菜那選手は、スピードスケート女子パシュートとマススタートで日本女子初の同一大会での2冠。カーリング女子は、同種目初のメダルとなる銅メダル獲得と、“初物尽くし”の大会になった。
一方で気になったのは競技の開始時間。通常、午後から夜に行われることが多いフィギュアスケートは、今回はほとんどが午前10時以降のスタートだった。逆に、日中のスタートが多いスピードスケートは午後7時以降に行われるなど、各国の選手たちは普段と違った調整を余儀なくされた。
今回の平昌オリンピックはどのような大会だったのか、そして2年後の東京五輪で日本が考えなければならない課題とは? 『けやきヒルズ』(AbemaTV)では、1980年のモスクワ大会から19回オリンピックを取材し、今回平昌でも現場を取材した“レジェンド”テレビ朝日スポーツコメンテーターの宮嶋泰子氏に話を聞いた。
■小平奈緒選手は「私が取材してきた中での理想像」

夏・冬の大会を通じ多くの選手を取材してきた宮嶋氏。長年見てきたという小平選手については次のように話す。
「小平選手の何が好きかというと、浮かれることなく地に足をつけて、自分が課題とするものを一つひとつ自分の頭脳で考えてクリアしていくこと。もちろん、信州大学教授の結城コーチという方が付いているが、彼女が信州大学に入った理由は将来学校の先生になりたかったから。スピードスケートの先まで自分をプランニングしていて、この先、先生になるかどうかは別にしても、将来子どもたちに何かを教えるためにスケートというものをやってきた。スケートは自分の人生を開拓していくためのものと言っている」
その小平選手は会見で「金メダルを通してどういう人生を生きていくかが重要」と話したが、宮嶋氏にとって小平選手は「理想像」だという。
「金メダルを取ることは名誉だけど、それは一過性のもの。そこにずっとしがみついているのではなく、その後の人生は自分がどうやって生きていくか。小平選手のお父様は、スケート経験ゼロなのに他の選手や上手な人を見ながら『あの人がああやっている。今度やってみようか』と考えて教えていて、(小平選手は)子どもの頃から考えて何かをやるということが身についていた。長く色々な選手を見てきたが、どこかコーチの操り人形のようになっているのは残念で、自分で考えていくのが上手な選手がいないかなと思っていた。小平選手は私が取材してきた中での理想像」

また、「オリンピックに魔物がいる」とよく言われることについて宮嶋氏は「選手に聞けば『自分の心の中に潜むもの』『オリンピックだから』と言うが、最近は金メダルを取ること自体も魔物ではないかと思っている。水泳のマイケル・フェルプス選手やイアン・ソープ選手は、金メダルを取った後に目標となるものを失ってしまって、非常に強いうつ状態に陥った。ひどい時には自殺も考えたということを彼らは告白している。人生はその日その日を着実に生きていくものだけど、金メダルを取りたいと思うとひたすらそこに向かっていく。達成してしまうと目標がなくなってしまって、どうやって生きていけばいいかわからなくなるかもしれない。小平選手ともそういう話をしたが、『それはどういう人生を歩んでいくのかということをしっかり考えていけば大丈夫だと思います』と言っていた」と話した。
■女子マススタートは「奈那選手には向いている競技だった」
平昌オリンピックで初めて取り入れられた種目の1つが、スピードスケートのマススタート。オリンピックでは度々新種目が取り入れられるが、その背景にはIOCの立ち位置があるという。
「スピードスケート界の中にも『危ないマススタートを本当にオリンピック種目にしていいのか』と考えている人もいる。今までスピードスケートというのはタイムを競うものだったが、マススタートは人と人との駆け引き。なぜ新しい種目が追加されるのかというと、IOC(国際オリンピック委員会)は大会ごとに成績票を出していて、観客数や視聴率などに応じて助成金を出すから。場合によっては種目がなくなることもあるので、みんな必死で観戦に魅力的なものをどんどん入れていこうとしている」

その女子マススタートで金メダルに輝いたのが高木菜那選手。宮嶋氏は「菜那選手に向いている競技だった」と振り返る。
「菜那選手のすごいところは、妹の美帆選手みたいにタイムを出す力は弱いけど、状況判断がすごく上手。高木家は色々なスポーツをやっていて、奈那選手はヒップホップダンスもうまい。音楽に合わせて踊るから、リズム感があったり飲み込みが早かったりする。そういう意味でいうと、奈那選手には向いている競技だったんだなと思う」
■放送権料に1兆3000億円「オリンピックで選手と観客は二の次」
今回話題になったのは、競技の開始時間。ニューヨークやロンドン時間に配慮したとされているが、その要因となっているのがIOCの資金源となっている放送権料。日経新聞によれば、米NBCは10大会(2014年~2032年)の米国向け放送権料に1兆3000億円を支払っている。

そういった背景を踏まえ宮嶋氏は「アスリートファーストという言葉があるが、オリンピックに関しては、選手は二の次三の次で観客もそう。12日夜のスキージャンプ時は、環境が悪く途中で帰ってしまう観客もいた。選手は決められた中でやるしかないので『そこで批判しても』という考えはあると思うが、本当はちゃんとした環境でやってほしいと思っている」と選手の考えを推測する。
では、2年後の東京五輪で気をつけるべきことは何か。宮嶋氏は「平昌が寒かったように、東京も『暑くてまいった』というメディアからの声が聞こえてきそう。だから、暑さ対策も相当やっていかないといけない」と環境の整備を訴えた。
さらに、4年後の2022年には中国で北京オリンピックが開かれる。宮嶋氏は、1992年アルベールビル五輪でスピードスケート銀メダルを獲得した中国の葉喬波(イェ・チャーボー)選手の話として「葉さんによると『中国は一人っ子政策で、大事な子どもに危険な冬の競技をさせられない』と冬のスポーツをさせないらしい。でも、五輪開催を機に子どもにも取り組ませたいということで、2月から4月の間に国がお金を出して、ある意味強制的に冬のスポーツを体験させるプログラムが組まれている」と紹介。このような普及の土台を作ることは大事だとしたうえで「目新しい種目を増やしているのは、スポーツ人口が減っているから。IOCも焦っている」と指摘した。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)


