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 きのう発売の『週刊文春』が衝撃的な内容を報じた。日本レスリング協会の栄和人強化本部長が、4大会連続の金メダリストで、国民栄誉賞も受賞した伊調馨選手に対しパワハラを行っていたというのだ。

 伊調選手は高校時代から栄氏と二人三脚で、2008年の北京オリンピックではアテネに続き連覇を果たし、栄氏に抱きかかえられ、祝福を受けた。しかし週刊文春によると、2人の間に翌2009年から亀裂が生じたという。伊調選手が愛知県から東京の警視庁などに練習の拠点を移したことに栄氏が激怒し、そこから長年にわたるパワハラが始まったというのだ。

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 今年1月には内閣府の公益認定等委員会に告発状が提出されたという。文春報道と告発状によれば、女子の練習だけでなく、男子の練習にも参加したいという考えで拠点を東京に移した伊調選手を指導していた田南部力コーチに対し、栄監督が「コーチングをしないように」と命じたという。また、ロンドン五輪後、栄氏らによって理由もなく男子の合宿練習への参加を禁止されたとしている。さらに、リオオリンピックまで拠点としていた練習場への出入りまで禁止したのだという。

■食い違う関係者の証言

 こうした訴えに対して、栄監督は1日午後の会見で「それはない。言う筋合もないし、言う必要もない。男子のコーチが男子の練習をしっかり見て、そのあとならいいよということ」「圧力をかけて「ダメだ」といったようなことはない。もし彼女がそう感じたのなら、ちょっと言葉足らずだったのかな」と主張。「僕の中では(パワハラは)一切やっていないと思うが、そこは彼女がそう感じたのであって、彼女がどう思っていたかは大事だ。そこはまた一緒に話す機会があれば話すべきだと思う」「ここまで本当に言ったのかなという心配と、さびしさを感じている」とも述べた。

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 告発状を送った貞友義典弁護士は「4連覇の前には関係者の方に『吉田沙保里さんが4連覇するより、伊調馨が負けるのを見たい』と、そこまで言っている。そういう話が聞こえてきている」と話す。内閣府では、日本レスリング協会の会長らから話を聞いき、事実関係を確認する方針だ。菅官房長官も「内閣府の公益認定等委員会において必要があれば、適切に対応していくことになると思う」とコメントしている。

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 ただ、この告発状は伊調選手自身が出したものではないのだという。伊調選手はFAXで「報道されている『告発状』については一切関わっていない。しかるべき機関から正式に問い合わせがあった場合はご説明することも検討したいと思っている。それ以外にお伝えすることはないが、私、伊調馨はレスリングに携わる者としてレスリング競技の普及発展を常に考えている」との声明を発表した。

■師弟関係に変化も

 スポーツ誌『Number』の元記者で、スポーツライターの小林信也氏は「なぜ周囲の人が出したのか。記事を読むと、田南部コーチが閑職に追いやられたような形になっているという。そこで田南部コーチの復権を求める動きがあるのだと思う」と話す。

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 また、栄氏が男子との練習をする機会を作らせなかったとされていることについて、「栄さんの立場で考えると、女子だけで日本のレスリングをここまでしたのは自分だというプライドがあり、そして世界に通用するスター選手を生み出す"聖地"を作ってしまった。これを他の人には侵してほしくないのだろう。一方、バドミントンのように、男子と練習することで成果が上がる側面があり、世界に敵がいない状態の伊調選手は、"男性と練習をした時に次元の違う世界があった"と言っていた。今よりステップアップしたい、新しい環境で新しいものに出会いたいという思いがあったはずだが、それが許されないような空気があったのではないかと想像される。連盟の要職にいる人たちは、とにかく金メダルを取ることに最高の価値を置くが、選手たちはメダルの向こうにある世界に突き動かされている。そこの差があるのかもしれない」と述べた。

 栄氏を取材したこともあるという日経ビジネスの柳瀬博一氏は「栄さんの道場は、まさにファミリーな感じで、真剣だけれど良い感じ。伊調選手とも、お父さんと娘さんのような関係だったと思う。パワハラの最大の問題は、する側とされる側に圧倒的な権力の差があるということ。当人にそのつもりは無くても、相手は傷つくことがあるというのが本質だ。かつてのお父さんのようなつもりだったのかもしれないが、そこを出ちゃった伊調選手からすると、レスリング界トップの絶対的な権力者から言われたという受け止め方に変質していたのかもしれない」との見方を示した。

■パワハラの問題は他のスポーツの現場でも?

 小林氏は「日常的にスポーツの指導者と付き合っている印象では、こうしたことは栄さんに限らない。ほとんどのスポーツ指導者が持っている体質だと言っていいと思う。また、選手や選手の親御さんも、"プロになるため"にということで、体罰や言葉の暴力、パワハラを容認してしまう"共犯関係"もある。正直に告白すれば、僕自身も中学生に野球を指導していたが、偉いと思ってしまっていて、失敗に対してすぐに怒っていた。自分の中で価値観を変えることにすごく苦労した。今でも"熱血"は嫌いではないが、スポーツはアート。才能をどう開かせてあげるか仕事なので、上から"指導してやる"という認識は改めなければならない」。

 「腹をくくった。みんなに声を上げてほしい」と周囲にコメントしたという伊調選手。小林氏は「過去には柔道でセクハラ、パワハラの問題があったが、他のスポーツ界は、"柔道界だけの問題"と矮小化してしまい、自己批判はしなかった。全ての指導者が自分の胸に手をあてて、"自分もだな"と感じられるかどうか。今回の問題がそのきっかけになってほしい。当事者同士の問題だけではなく、スポーツ界が変わっていかないと、2020年にオリンピックを迎える資格はないと思う。これを機会にそういう方向に進んで欲しい」と述べた。

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