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 「データに様々なご指摘があったことについては改めてお詫びを申し上げたいと思う次第だ。この働き方改革法案において、裁量労働制については全面削除するということとした。その上で厚生労働省において実態をしっかりと把握をして検討を進めてまいりたいと思う」

 安倍総理はそう述べ、今国会の目玉「働き方改革」から裁量労働制の対象拡大を削除した。

 紛糾の原因は、厚生労働省が提出したデータにあった。そこでは労働時間について、裁量労働制の人に「1日の労働時間」を尋ねた調査結果と、一般の人に「月で最も働いた日の残業時間」を尋ねた調査結果を比較。これは裁量労働制が妥当かどうかを議論する厚労省の審議会にも提出されていて、法案の根拠として「おおむね妥当」との判断を得ていた。

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 安倍総理もこの資料を根拠に「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間の長さは平均的な方で比べると一般労働者よりも短いというデータもあるということは紹介させて頂きたい」と答弁。しかし、野党から残業時間の数字に計算の合わない点があるなどと指摘され、2月14日になって加藤厚労相が「こうした精査に相当の時間を要するようなデータをお示ししたということについては、これは撤回をさせていただきたいという風に思う」とし、安倍総理も答弁を撤回・謝罪することになった。

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 2日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、今回の問題の背景を"霞が関"の視点から考えた。

■問題のデータは"闇調査"だった?

 今回のデータをめぐっては、裁量労働制で働く人の労働時間が1時間以下という事業所が20カ所以上あるという指摘をはじめ、2月21日の段階で117カ所の不適切なデータがあることも指摘されており、厚労省は2月末までに365カ所を超える異常値が見つかったと報告している。

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 自民党の丸川珠代参議院議員は「数字を扱う姿勢に甘さがあったのではないか。厚生労働省には猛省を促したいと思う」と参院予算委員会で指摘。厚労省の藤枝茂・労働条件政策課長も2月19日、野党によるヒアリングに対し「労働時間について一般労働者と裁量労働制で異なる仕方で選んだ数値を比較していたことは不適切であったと認識しており、深くお詫び申し上げる」と述べている。

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 元経産官僚でコンサルタントの宇佐美典也氏は「官庁のデータには大きく分けて3つある。まず、工業統計や商業統計、労働実態調査など、"基幹統計"と呼ばれる非常に重要な統計と、これに準ずる"一般統計"と呼ばれる統計。この2つは総務省が内容を審査し、各省庁とすり合わせて調査を行うもので、今回のような事は起こらない。そして、"闇統計"と呼ばれる、各省庁がそれぞれの裁量で行っている調査がある。新しい統計を作るためには時間がかかってしまうため、これは突然降ってわいたような政治的な案や政策に対応するために使うケースがあり、おそらく問題になっているデータもこの"闇統計"によるものだろう」と推測する。

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「裁量労働制の問題は、厚労省発の政策ではなく、官邸にやらされたもの。そうでなければ、時間をかけてデータを集め、政策を作ると思う。"働き方改革"自体、本来は厚労省の重要政策だが、あまりにも忙しいため、官邸や経産省が入り込んで企画して、厚労省に降ろしてきた政策だと言う話だ。ただ、法案の根拠にする資料は、最低でも"一般統計"のはず。こんな重要な法案に"闇調査"のデータを使うというのは、組織としておかしくなっている証拠ではないか」。

■転職希望者も続々…厚労省を中核とした省庁再編と働き方改革を

 2001年に省庁再編で厚生省と労働省が合併し誕生した厚労省は、全国で3万人以上の職員を抱える巨大官庁だ。所掌事務も膨大で、乳幼児健診や予防接種、小学校の放課後学童、食品や医薬品のチェック、麻薬や覚せい剤の取締り、ハローワーク、健康保険や年金、高齢者施設、介護など、広範囲にわたる。

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 それだけに国会での答弁数、委員会の審議時間もダントツの1位だ。「働き方改革」の司令塔であるはずが、労働環境はまさに"ブラック"で、各省の職員を対象にしたアンケート調査では、「月平均の残業時間」「過労死の危険を感じたことがある」「休日出勤がある」など、多くの項目でワースト1位となっている。

 中央省庁の労働組合で作る「霞が関国家公務員労働組合共闘会議」が昨年公表した調査結果によれば、2016年の月平均の残業時間は厚生労働省の厚生部門が55時間で最も長く、労働部門が45.3時間で2番目だった。また、調査に応じた厚労省職員の4割以上が「過労死の危険を感じたことがある」と回答。残業が長くなる要因は「業務量が多い」が57%、「(答弁案の作成など)国会対応のため」が30.3%。業務が長引く理由については「国会議員の質問通告が遅い」といった意見があったという。

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 2001年から2014年まで厚労省に勤務していた労働問題コンサルタントの田岡春幸氏も「質問は前々日までと決まっているのに中にはギリギリに出して来る議員もいる」「法案を提出する部局は1~2週間も家に帰れないことが当たり前で、徹夜をすることもある」「国会開会中、18時以降は30分以内に戻って来られる場所にいなければならない」と証言している。

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 宇佐美氏も「若手が当番になって泊まり込んで、電話が来たら担当者を霞が関に呼び戻す。質問が18時に来ると、どの省庁のどの部課が答弁を作るかを割り振り、9時頃から深夜2、3時頃まで答弁を作成するというのが、霞が関の一般的な国会対応。中でも厚労省は法案改正があまりにも多すぎて事務が回らない、ましてや将来の法改正を考える余裕もない。国会で年柄年中、炎上して糾弾されて、とりあえずこの1週間、1か月どう乗り切るかばかりを考え続けている」と話す。

 「2001年統合以降、少子高齢化が進んで業務がどんどん膨らんでいる。その一方、言いにくいことではあるが、男女共同参画を進めて女性を積極的に採用し、育休も積極的に取らせた。働き方は変えないままなので、実質的に職員数は減って、残った人たちの仕事が増えた。女性が出産しようと止められるような、メチャクチャな状況。転職エージェントの仕事もしているので、現役の官僚から相談を受けるが、厚労省の人はみんな"考える時間がない、忙し過ぎる"と、同じことを言う。泣きながら相談してきた女性もいた。厚労省はもう限界に来ているので、分割すべきだ」。

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 宇佐美氏も提言する厚労省の分割については、小泉進次郎衆議院議員など、自民党の若手が発案した再編案もある。A案は「社会保障、子ども子育て、国民生活」に分割するというもので、B案は「社会保障、国民生活(子ども子育て含む)」の2省分割、そして1省体制維持のC案は「大臣を2人置く」というものだ。

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 宇佐美氏は「C案は何の意味もない。大臣が増えても現場の人は増えない。政治家のお世話は官僚には重荷。国会で答弁をする大臣の負担は減るが、それを書いている方の負担は全く減らない。私は日本の文科省と厚労省の所管を教育省、保健省、労働年金省の3省で分担しているイギリスの例が参考になると思う。自分のミッションが分からないことが厚労省職員の悩み。厚生労働省の将来はそのまま日本の将来につながるので、ライフステージに分け、厚生労働省を中核に省庁を再編して、省庁の働き方改革を2020年までにやらないといけない」と訴えた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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