第57回小学館漫画賞一般向け部門受賞、「このマンガがすごい!2009オンナ編」第1位に輝き、テレビアニメ化も大きな話題となった人気作を実写映画化した『坂道のアポロン』は、友情、恋、そしてジャズを通じて交流を深めていく若者たちを描いた青春と愛の物語。
本作で、長崎・佐世保に引っ越してきた内気な高校生・西見薫(知念侑李)の心を開かせる不良のクラスメイト・川渕千太郎を演じ、新境地を見せているのが俳優の中川大志。髪の毛を明るく染め、今までのイメージとはガラッと違った役に挑戦した中川に、本作への思いや2度目の共演となった知念侑李との交流について話を聞いてきた。
この映画は「千太郎と薫のラブストーリーだと思ってます」
ーー今回の千太郎役は、見た目からいつもの中川さんと少し雰囲気を変えて作り込んでいますが、どんな人物だと考えて演じられたのでしょうか。
中川:一見豪快で、周りからも近づき難いような不良なんですけど、実はすごく繊細なキャラクターだと思っています。薫(知念侑李)や律ちゃん(小松菜奈)など周りのみんなを巻き込んで引っ張っていく、かき乱していくような明るいキャラクターであればあるほど、内側に抱えている繊細なものが出てきたときに、千太郎という人物がより一層深みをもってお客さんに知ってもらえるんじゃないかと思ったので、そこを意識しました。
ーー中川さんの千太郎、とても魅力的でした。
中川:純粋に音楽が好きでドラムを愛している真っ直ぐさ、そして家族、兄弟を大切にしているお兄ちゃんの部分もいいなと思いましたし、少し抜けている可愛らしい一面もいいですよね。原作から僕が感じた千太郎の表現したい魅力は表現できたかなと思います。
ーー千太郎を演じる上で難しかった部分や、逆にやりやすいと思った部分、印象に残っているシーンはありますか?
中川:なぜ僕にこの役がきたのかと思うくらい自分とは違うキャラクターだったので、意識的に動き方や声のトーンを考えながら演じていました。でも、それはすぐになくなっていって。
ーー途中からは自然と千太郎になることができた?
中川:自然と自分の中にスッと引き寄せられて、すごく自然体で演じられたと思います。ドラムを叩いているときに、キャラクターがのってくると練習とは叩き方や動き方が変わってきたり。千太郎としてのドラムのスティックの振り方とか叩き方が出てきて、そういう部分は役が乗り移った感じがしました。こういった役作りはチャレンジでしたけど、上手くいったなと思っています(笑)。今振り返ってみても、その瞬間にしかない、自分じゃないような自分が残っている気がします。
(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館
ーーなるほど。薫にとって、千太郎は自分の殻に閉じこもっていたところを引っ張り出してくれた人だと思います。逆に千太郎にとって薫との出会いはどんなもので、どういった存在だったと思いますか?
中川:お互いに育ってきた環境やもっているものとか、キャラクターが全然違う2人。正反対の2人だからこそ化学反応が起きたんじゃないかなと。監督に「(この映画は)千太郎と薫のラブストーリーだと思っています」と言われて、僕も確かにそうだなと思いました。
ーー出会いのシーンも、ラブストーリーのような美しさでしたね。
中川:薫は、千太郎にとって初めて律子以外に自分の本当の姿をさらけ出せる存在。見た目だったり育ってきた環境だったり、そういうものを抜きにして、人としてただただ正面衝突してきたのが薫だった。千太郎も嬉しかったと思いますし、そこに心動かされたのかなと思います。だから気づいたら「おいの友達」って言ってるんですけど(笑)。そこは千太郎にとっても今までにない出会い、薫のような人に出会ったことがなかったのかなって。なおかつ、一緒に音楽ができたことがさらに良かったのかなと思います。
ーー千太郎は表面上はガサツに振る舞っていますが、内面では薫と同じような孤独感を持っている人だと感じていたのでしょうか。
中川:感じていたからこそ、自分をさらけ出せたというか、同じものを感じたから初めてお互いさらけ出し合えたのかなと思います。だから、孤独だった2人が全部をぶつけ合ってひとつになる瞬間は、音楽がのっていることもあり、僕も演じていてすごく楽しかったです。
圧巻のドラム演奏&セッションシーンの裏側は?
ーー本作ではドラムを演奏するシーンも多かったと思うのですが、ドラムの練習自体はどれくらいされたのでしょうか?
中川:クランクインする約10か月くらい前からですね。まだ台本も出来上がっていない頃だったと思います。ドラムはちょこっとだけ習っていたことがあったんです。でもジャズの音楽というのはまったく未経験で、ふだんからあまり聴くわけでもなかったので、最初はすごく苦戦しました。
ーー知念さんとはセッションの練習もけっこうされたのですか?
中川:最初に知念くんと合わせたのは、クランクインの一週間くらい前。ずっとお互いに別々で練習してきて、そこで初めて合わせました。だからずっと、周りのスタッフさんにお互いの練習状況の探りを入れていて(笑)。「知念くんはもうこの曲仕上がりましたよ」と言われて、「まじですか!ヤバイヤバイ」みたいな、お互い状況を聴きながら別々で練習していました。初めて合わせたときはすごく楽しかったですし、初めて一緒にやったときの気持ちは大事に、この映画の中でも出せるようにと思ってやりました。
――一番の山場となる文化祭のセッションシーンの撮影はいかがでしたか?
中川:トータルで丸々2日間撮影したんですけど、たくさん地元の学生のエキストラのみなさんにも参加して盛り上げていただきました。参加してくださっているエキストラのみなさんは、「どんなものが見られるんだろう」って気持ちももちろんあるわけで、こちらもやっぱりエンターテインメントとして「お客さんにパフォーマンスを見せてやろう!」という気持ちがよりのってきて、一層気合いが入りました。見てくれるみなさんの表情を見ていると、実際に演奏で驚かせたいな、楽しんでもらいたいなという気持ちにもなりました。
(C)2018 映画「坂道のアポロン」製作委員会 (C)2008 小玉ユキ/小学館
ーーセッションシーンは本当に素晴らしくて、涙が出るほどでした。
中川:ありがとうございます。あとはやっぱりあのシーンは、千太郎と薫が仲直りをするというか、一度離れた関係が音楽によって引き戻されるシーンでもあるので、とにかくその音楽の力を僕たちも肌で感じつつ、映画としても表現したいところではありました。
ーー知念さんとのアイコンタクトもすごくリアルでしたが、どのような演出だったのでしょうか?
中川:曲を流してそれに合わせて僕たちが演奏するんですけど、生で2人で演奏する感覚をつかむために、練習で音楽を流さないで自分たちの音だけでセッションをしたんです。そうすることによって、「ここの入りを合わせるためにはここで視線を合わせるよね」とか、「自然とここで動きをアピールし合うよね」とかが分かってきて。
ーー実際にお二人でセッションをしながら、正解を見つけていったと。
中川:特に体育館のシーンはステージ上と下に分かれていて、2人の距離があるのでアイコンタクトとお互いの動きのアピールが必要なんです。もちろん僕たちは全部1曲出来上がったものを知っていて叩いているんですけど、劇中では一応アドリブでやっていくという設定なので、その場のぶつかり合いや生で生まれていく臨場感を表現しなくちゃいけない。実際に生で演奏してみることによって、お互いアイコンタクトするポイントなどを決めていきました。
ーー本当に息がぴったりでした。やっぱりお客さんの前で演奏をするのは気持ちよかったですか?
中川:気持ちよかったですね~。初めて見せる時は、そこで僕たちが引っ張っていくというか、「僕たちここまでやってきましたよ」って見せなきゃいけない場でもあったので相当緊張しましたけど、とても気持ちよかったです。
知念侑李とは2回目の共演「一緒の部屋に泊まっていました」
ーー知念さんとは2回目の共演だと思いますが、地方での長期ロケで見えた新たな一面はありましたか?
ーー中川さんがギリギリというわけではなく…?
中川:僕はいつも割りとギリギリです(笑)。
ーー(笑)。中川さんの元旦のブログには「時間に余裕をもって行動する」と目標を書かれてましたが。
中川:そうなんです。けっこうギリギリになっちゃうことが多いので、早く行動しないといけないなと思っています……。
ーー今回の撮影での知念さんとの印象的なエピソードがあれば教えてください。
中川:ずっと一緒でしたね(笑)。後半の3日間くらいをホテルの一緒の部屋で過ごしました。同じホテルにずっと泊まっていて、もちろん違う部屋で1か月半過ごしていたんですけど。畳の広い部屋があって、「そこに一緒に泊まろうよ。なんか修学旅行みたいじゃん、楽しいね」って言って。それで最後の3日間くらいは一緒の部屋に泊まりました。
――仲良しですね。撮影は佐世保だったとのことですが、ご当地グルメなどは食べましたか?
中川:みんなでご飯に行きました。肉も美味しいし、魚も美味しいし、佐世保バーガーも美味しいし(笑)。本当に美味しいものがたくさんありました。知念くんと最高で5日連続くらいで焼肉に行きました。さすがにちょっと焼肉食べすぎだな、ってくらい食べましたね。
ーー連続はすごいですね!それは知念さんにも「また焼肉行こうよ」って誘われて?
中川:泊まっているホテルの近くに何店か焼肉屋があるんですよ。それで「あそこも行ってみたいね」ってだんだん制覇していく(笑)。僕もちょうど(役作りとして)体を鍛えている時期だったので、肉を欲していたんです。魚も美味しいのでお寿司とかももちろん食べましたけど、肉が続きましたね(笑)。
ストーリー
医師として病院に勤める西見 薫。忙しい毎日を送る薫のデスクには1枚の写真が飾られていた。笑顔で写る三人の高校生。10年前の夏、二度と戻らない、“特別なあの頃”の写真……あの夏、転校先の高校で、薫は誰もが恐れる不良、川渕 千太郎と、運命的な出会いを果たす。二人は音楽で繋がれ、荒っぽい千太郎に、不思議と薫は惹かれていく。ピアノとドラムでセッションし、千太郎の幼なじみの迎 律子と三人で過ごす日々。やがて薫は律子に恋心を抱くが、律子の想い人は千太郎だと知ってしまう。切ない三角関係ながら、二人で奏でる音楽はいつも最高だった。しかしそんな幸せな青春は長くは続かず――