
「南北は4月末に板門店の平和の家で第3次南北首脳会談を開催する」(韓国・鄭義溶首席特使)
金正恩委員長が文在寅大統領と首脳会談を行うというニュースは、すぐにアメリカをはじめ全世界に伝えられた。8日午前には、金正恩委員長と会談した韓国の鄭首席特使と徐薫国家情報院長の2人がワシントンに出発。合意内容のアメリカへの説明のため、2泊4日滞在する予定だ。
これを受けトランプ大統領は7日、「世界、北朝鮮、朝鮮半島にとってすばらしいことだ」とコメント。さらに、過去のブッシュ政権やクリントン政権もできなかったと強調し、トランプ政権の成果だと自画自賛した。一方、金正恩委員長との首脳会談の可能性については「私は前向きに考えたいが、これまでにない状況まで事態が発展しているかもしれない。まずは様子を見てみよう」と述べた。
6日、金正恩委員長らとの会談を終えソウルに戻った韓国の特使。彼らが平壌から持ち帰ったのは、まさに文大統領が待ち望んでいたものだ。鄭首席特使は「南北は4月末に板門店の平和の家で第3次南北首脳会談を開催する。そのための具体的な実務協議を進めていくことにした。北朝鮮は朝鮮半島非核化の意思を明確にし、軍事的な脅威が解消され、北朝鮮の体制が保障されるなら核を保有する理由がないことを明確にした」と非核化に言及。文大統領は「朝鮮半島の平和と非核化においてとても大切な山場を迎えたようだ」と述べた。
平昌オリンピック後、2週間も経たずに実現した韓国特使の平壌訪問。北朝鮮の朝鮮中央テレビは6日、「敬愛する最高指導者同志は、南側の特使から首脳会談に関する文大統領の意志を伝え聞き意見を交換。“満足な合意”に至った」と伝えた。
韓国に持ち帰られた北朝鮮の“非核化”という意志。また、南北で対話が続いている間は核実験やミサイル発射などを行わないと明言し、米韓合同軍事演習についても「例年水準で行うことは理解する」という立場を明らかにしている。
核放棄を対話の前提条件としているアメリカでは、今回の会談の結果はどのように受け止められているのか。トランプ大統領は「素晴らしき平和な道を歩んでいけることを願っている。ただ、必要であればどの道でも進めるよう備えている」と対話に期待感を示しながらも、軍事オプションも示唆して北朝鮮をけん制した。一方、ペンス副大統領は「北朝鮮が非核化に向けた具体的行動を見せるまで最大限の圧力をかけ続ける」と強硬姿勢を強調。コーツ国家情報長官は「北朝鮮が核兵器を保有しないことに同意することが不可欠。それが実現するまで北朝鮮とは何の協定も結ぶことはできない。それが我々の立場であり、様子を見極めたいと思う。何らかの突破口になるかもしれないが、私は絶対にあり得ないと思う。ただ“希望の泉は枯れず”(七転び八起き)だ」とした。

北朝鮮が韓国の特使と会談したことについて、隣国・中国とロシアは歓迎の意向を示している。中国の耿爽副報道局長は「一連の交流による積極的な成果を喜んでいる。関連国は現在のチャンスをつかんで非核化への問題解決プロセスのために努力してほしい」とコメント。ロシアのコサチョフ連邦院国際問題委員長は「北朝鮮がミサイルや核実験を最も脅威に感じている韓国と共同で、問題解決に前向きな姿勢を示した。南北関係における進展は間違いなく北朝鮮の功績」と述べたという。

そして、菅官房長官は「北朝鮮の対応にあたっては、北朝鮮との過去の対話が非核化につながってきていない。その教訓を十分に踏まえて対応すべきものであると思っており、対話のための対話であっては意味がない」と述べ、日本は慎重な姿勢を崩していない。
4月末に板門店で行われるという南北首脳会談。対話に向け大きく舵をきった北朝鮮の真意とは何なのか。AbemaTV『AbemaPrime』は東京国際大学教授の伊豆見元氏に見解を聞いた。
■伊豆見氏「非核化はすぐには難しい」
南北首脳会談開催の一報について「南北関係が動くことは予想されていた話」と話す伊豆見氏。対話へ舵を切った北朝鮮には南北関係を進展させたい考えがあると話す。
「首脳会談が意外と早く実現することになったのは驚き。首脳会談を実現するためには、核問題に対する北朝鮮の姿勢が変わらないとダメだったが、今回実際に変わったということを示した。非核化という意思を示し、具体的な行動として核実験と弾道ミサイル発射のモラトリアムを表明した。かなり早い時期に北朝鮮は転換してきた。南北ともに南北関係を(前に)早く進めたいということがよく表れている」

これまで核開発を国家戦略として進めてきた北朝鮮。非核化の実現について伊豆見氏は「すぐには難しいだろう」との見方を示す。
「非核化に向けたプロセスは非常に長く複雑で、困難な道が待ち構えている。その道を歩み始めるであろうということは言えるが、まず今の能力を向上させないために蓋をする対象がたくさんある。寧辺という地域に5メガワットの黒鉛減速型と言われる原子炉がある。プルトニウムを作れるもので、1つ目としてこれは止めないといけない。また、プルトニウムを作れる軽水炉を建設していて、どこまでできているか分からないがこれも止めないといけない。3つ目には、少なくともウランを濃縮する作業を行っている施設があるので、これも止めなければならない」
伊豆見氏は最低この3つが対象になるとしたうえで、状況を常に監視することと、IAEA(国際原子力機関)の査察官がチェックする体制を整える必要があるとし、「これらが凍結の第一歩だが、これだけでも簡単にいくかどうか分からない。ウラン濃縮は、北朝鮮は否定しているが寧辺以外の地下の施設でも必ずやっているだろうと我々は確信している。これをまず明らかにさせて、止めないといけない。そして、同じようにIAEAの査察官に監視させないといけない。そこまでやって蓋をするのが第1弾。これだけでもどれだけかかるかという話」と懸念を示した。
■南北首脳会談実施による両国のメリットとは
南北首脳会談が急転直下、決まった背景には何があるのか?伊豆見氏はまず韓国側の“内政”におけるメリットをあげる。
「韓国は首脳会談を早くやりたかった。6月に統一地方選挙があって、与党側はここで勝ちたい。特に首長の選挙できちんと勝てると、おそらく国政レベルで野党の再編があって、野党の一部は与党に吸収されるはず。そうすると安定した多数派になり、そこからは南北対話、南北の協力、支援を進めやすくなる。文大統領はしっかりと基盤を固めたい。そのために使えるのが首脳会談」

では、その韓国に乗った北朝鮮にはどのようなメリットがあるのか。
「韓国が安定すると北朝鮮にもメリットがある。北朝鮮が期待しているのは韓国による経済支援で、韓国国内では反対もあるだろうが国会で安定多数になることは重要。安全保障という面もあるが、それよりも経済協力において北朝鮮にお金を出してくれそうなところ、とりわけ直接投資をしてくれそうな国は地球上に韓国しかない」
しかし、疑問に思うのは、国交や経済のチャンネルが閉ざされてきた中で、なぜ北朝鮮はその壁を取っ払うことができるのか。この点について伊豆見氏は「李明博大統領、朴槿恵大統領の時も、北朝鮮はまず軍事会談をやりたいと主張していた。軍事的な緊張緩和、そして相互不可侵。南北平和の構造を作りたいと北朝鮮は言っていたが、韓国は保守政権の時に逃げまくっていた。彼ら(韓国)が怖がっていたのは、平和の問題に手をつけてしまうと在韓米軍の話を持ってこられて、米軍に撤退されてしまうのではないかということ」と説明した。
そんななかでの北朝鮮の“非核化”の示唆は「突然の話でも何でもない」という。
「北朝鮮は『アメリカによって核を持たされた』という論を主張している。アメリカの脅威に対して核兵器を持って防ぐしかなかった、我々は持ちたくなかったと昔から一貫して言っている。アメリカが軍事的脅威を与えず体制も保障するなら、我々は核を持つ必要がない、当たり前の話だということ。ここに来て突然言った話でも何でもない」
■「北朝鮮が本当に欲しいのは韓国の支援」
朝鮮戦争後、初めての南北首脳会談は2000年に行われ、和解と統一に向けて双方が歩み寄ることを確認した。その後、朝鮮半島の非核化をテーマに6カ国協議が開かれ、北朝鮮は核開発をしないという共同声明が採択された。しかし翌年、北朝鮮は核実験を実施し、これに各国は激怒。北朝鮮は国際制裁を受けることになった。

再び北朝鮮が歩み寄りを見せたのは、2007年の2回目の南北首脳会談。その後、北朝鮮はアメリカから食糧支援を引き出し、それと引き換えに核実験やミサイル開発の停止を表明した。しかし、2カ月後にはこれも破棄。裏切りの歴史は繰り返されてきたが、北朝鮮は今回、合意を守る考えはあるのだろうか。
伊豆見氏は「我々は(北朝鮮への)不信感がダダ漏れ」としつつ、「不信感を持ちつつ、北朝鮮が約束したことをどれだけ守るのかを見つめて先に進めていくという話。北朝鮮を信じられるまで100年、200年待つのかという話。でもアメリカも嘘つき。北朝鮮も嘘つきだがバランスを取って見ないといけない」と注意を促す。

では、時間をかけたとして北朝鮮は非核化に向かうのか。伊豆見氏は「北朝鮮がほしいのは韓国からの協力であり支援。それを実現しようと思ったら、核問題を先に進めないと無理。だから、アメリカから経済的な繁栄と安全がきちんと保障されて、それが現実味を帯びてぶら下げられたらその時は(核の)放棄まで考えようかとなるが、今それは夢のまた夢。放棄することを考えろというのがアホみたいな話」との見方を示した。
再度非核化の交渉に乗ってきた北朝鮮に対しては、それを認めさせるために厳しい方針をとるべきとの見方もある。伊豆見氏は「オール・オア・ナッシングで考えるのではなくて、1歩ずつでも脅威を減らしていく、最終的に非核化に結びつくなら結構、と持っていく方法を取らないと。今までが裏切り・失敗だというけど、圧力でうまくいったことはない。ほったらかしたことで、北朝鮮の核はものすごく発展した。対話と圧力、両方をみないといけない」とした。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


