
人口およそ6000人の港町・宮城県気仙沼市唐桑町。2011年3月11日に起こった東日本大震災は、海を生業にしてきたこの町を容赦なく襲い102名もの人が犠牲になった。
震災直後、この唐桑町にボランティアとして駆けつけたのが根岸えまさん(25)。3年前に都内企業の内定を断って移住し、唐桑を盛り上げるために日々働いている。後継者不足に悩む漁師の仕事を地元の中高生に知ってもらおうと漁体験をさせたり、市からの委託を受けて移住者の支援を積極的に行ったりするなど、唐桑の魅力を全国に発信し続けている。

えまさんら唐桑に移住してきた女子たちは、自らを「ペンターン女子」と名乗っている。「ペニンシュラ(半島)」に「ターン(移住)」で、“唐桑半島に移住した女の子”という意味だ。『けやきヒルズ』(AbemaTV)では去年3月、キャスターの柴田阿弥が彼女らを取材。それから1年の間で起こった変化を追った。
■宿泊場所の提供をきっかけに民宿「つなかん」を開業
えまさんたちにとって大切な場所が、女将の菅野一代(かんの・いちよ)さんが切り盛りする民宿「つなかん」。港の目の前に位置している。
菅野さん一家は震災前、カキやホタテの養殖を生業にした漁師だったが、津波で生活の糧を奪われ、津波は自宅の3階まで到達した。傷ついた一代さんたちの心を癒したのは、えまさんをはじめとした町に駆けつけた学生ボランティア。
えまさんは当時を振り返り「最初、被災地に行くというので結構みんな暗いのかなとか、絶望の淵に立っている人に何て言葉をかけていいかわからないなと。でも、一代さんは宿泊所に来てすっごい元気で『みんなー来てくれてありがとう!!』って」と話す。

一代さんは「宿泊場所をボランティアたちに提供したい」という思いで自宅を無償で開放。それがきっかけとなり民宿「つなかん」を開業した。
「お泊まりする場所になれば、社会人になってもまた来てくれるかなという思いがありました」(一代さん)
そして、つなかんは延べ1000人以上のお客さんが訪れるほどの大人気の民宿に。夫の和享(やすたか)さんらとともに、カキやホタテの養殖もついに再開した。震災前よりも活気を取り戻したかに見えた菅野さん一家だったが、2度目の試練が一代さんを襲った。
■漁船事故で夫・長女・義理の息子を失う
去年3月23日、気仙沼沖で漁船が転覆し長女・早央里さんが死去、夫・和享さんと三女の夫・拓人さんは行方不明に。一代さんはこの日、最愛の家族3人を一度に失った。
「なんでこんな苦しいことが与えられるんだろうと。神様っているのかなって。なんで私ばっかりって、神様を憎んだ」(一代さん)

大黒柱を失い養殖業は廃業。民宿「つなかん」も休業し、ふさぎ込む日々が続いた。しかし、事故から1カ月、一代さんは突如えまさんたちにあるお願いをする。
「どうせもう海に出ることができないなら、この子たちに漁具を片付けてもらおう。そういう思いになったんですよね」(一代さん)
漁具の片付けには移住したメンバーだけでなく、かつてつなかんで寝泊まりしながらボランティアをしていた若者たちも全国から駆けつけた。7年前津波によって瓦礫に埋もれた町を片した時のように。一方えまさんは、事故からまだ1カ月しか経っていなかったこともあり、大好きだった3人の思い出が残っているものを早く片付けることに抵抗感があったと告白した。一代さんはその告白を聞いて「この子達が嫌がる気持ちもすごくわかっていた。わかっていたんだけれども、漁具を見るとどうしても過去を思い出してしまう。その中で生きていくのは辛い。それだったら他でもないこの子たちの手で、辛いけども片してもらいたかった。でも、片しても心の中にちゃんと入っている。私の心には片せないものがある。だからこそこの子たちの手で片付けてもらいたかった。」と涙ながらに語った。
そして、民宿つなかんは事故から4カ月後の去年7月に再開。開業日には一代さんを励ますため全国から人が集まった。
「まずは乾杯だね!ここにやっさん(夫・和享さん)がいなかったのが本当に残念なんですけど。でも、きっとやっさんも早央里も拓人も喜んでくれていると思います。本当に今日はありがとうございます」と一代さんは涙をこらえながら気丈に振る舞った。

かつて一代さんは民宿「つなかん」から見える海が大好きだと語っていた。しかし、海は1度ならず2度も一代さんから大事なものを奪っていった。「正直言ってまだ海は見られないです。お客さんが海見えて綺麗だねって言って『そうですね』って返すけど、海を見ていても全然心に入ってこない。だから、このいろんな思いの狭間の中で、えまのような若い子たちがどんどん増えてくれたら私はもう本望だなって。つなかんは私の命。新しい若い子たちが、どこにいっても頑張って生きていける日本であればいいな。けどまあ唐桑がいいんだけどね」と笑った。
■えまさん「少しずつ一緒に前に進んでいる」
震災から7年、取材から1年が経った唐桑。えまさんは一代さんの様子について「去年からつなかんが再開して、お客さんも来てくださるようになった。少しずつ前に一緒に進んでいます」と話す。

またペンターン女子には新メンバーが加わり、今春からはさらに2人の女性が増えるそうだ。
現在、えまさんたちはつなかんの1階に事務所を置き、中高生向けの漁体験や地元の若者を応援する活動などを行っている。つなかんに若者の拠点ができたのだ。今後については「ペンターン女子がもっと増えるようなことだったり、この地域の方と一緒に前に進めていくようなことをしたいと思っています」と意気込みを語った。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)


