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 東京都台東区に位置する日雇い労働者が集う街、通称「山谷」。15年ほど前からここで暮らす源さん(仮名、60)は、工事現場での仕事が減り空き缶拾いなどで生計を立てている。

 山谷は明治時代にはすでに日雇い労働者の街として知られていた。人々は全国から仕事を求めて集まり、彼らが日本の高度経済成長を支えてきた。そこには仕事を仲介する“手配師”と呼ばれる人たちもいた。

 屋根がなくなったアーケード街で「夜ここでみんな寝てるんだよ。100人とか50人とか」と説明する源さん。雨露をしのぐホームレスが集中したことと老朽化が進んだことで、今年に入って全ての屋根が取り払われた。

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 山谷にホームレスが集まる理由は、毎朝行われる日雇い労働の求職と、2千円台で泊まれる簡易宿泊所があること。日雇い労働の求職は体力のある若い人が優先されるといい、源さんのような人たちは仕事にあぶれる日々が続き、路上生活を余儀なくされている。目に見える貧困としては最下層に近い。

 東京都の調査によると、23区内のホームレスの数は、10年前は5000人ほどだったが現在では1000人ほどに減っている。彼らはどこに行ったのか。

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 上野公園で週に1回行われている炊き出し現場を訪れると、先着200名の炊き出しに長蛇の列。ある男性は「1人で飯食ったって美味しくない。ここに来て皆で食べたほうがいい」と話す。現場を見るとホームレスの数は減っているように見えるが、炊き出しの主催者は「(ホームレスは)みんな亡くなった。昔は800人くらい人がいた」「そういう生活をするとやっぱり体にもあまり良くない」と指摘する。路上生活という過酷な生活で命を落とす人も少なくなく、中には「暖かいし飯も出る」と留置場に入るホームレスもいるという。

■生活はできてもお金が貯まらない現状

 山谷で暮らすホームレスの男性(30代)が「たまに漫画喫茶に泊まっている。大体(週に)1日か2日。飲み放題のジュースをずっと飲んで、雑誌を見ている」と話すように、比較的若い世代の日雇い労働者の中では、簡易宿泊所ではなくネットカフェで寝泊まりする人が増えているという。

 北千住にあるネットカフェで取材に応じてくれたショッカーさん(仮名)は、茨城県出身の33歳。ここで暮らし始めて3カ月が経つ。ネットカフェの料金は1泊で1977円、1カ月で約6万円。ショッカーさんは日払いの工事現場で1日約1万円を稼ぎ、ここを生活の拠点にしているが貯金はない。

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 東京都が初めて行った実態調査によると、都内のネットカフェに長期滞在している人の中で、住む家がない人はおよそ4000人。その内3000人ほどが日雇いバイトや派遣など不安定な働き方をしているという。生活困窮者の支援を行うNPO法人・自立生活サポートセンター「もやい」の大西連理事長は「その中には山谷にある簡易宿泊所からネットカフェに移ってきた人たちもいる」と指摘する。「今はインターネットを使えないと日雇いの仕事もしづらくなっている。ネットカフェはインターネットが使えて携帯の充電もできて利便性が高く、(住みかが)変化していったというのはあると思う」。

 かつて、手配師が仲介していた日雇い労働はネットに情報が流れ、貧困は路上という目に見える場所からネットカフェという見えにくいところに舞台を移しているとも言える。

 新宿・歌舞伎町にもそんな人たちが集まってきている。あるネットカフェは、64席ある個室のうち約8割の人が“ネットカフェ難民”と呼ばれる長期滞在者だ。午後9時前、部屋に帰ってきた倉田幸子さん(仮名、30)。これまで地方の実家で暮らしていたが、約1カ月前に両親と喧嘩して上京、それからネットカフェ暮らしが続いている。

 現在の全財産は1万円。「日払いで貰えないし時給安い。800いくらとか」と、ネットで見つけた時給約2500円のソープ嬢をしている。客が付いても付かなくても店にいればバイト代がもらえ、週3~4回の出勤で月収は10万円ほど。普段の食事は、カップ麺やコンビニの弁当にファーストフードがメインだという。10万円の収入のうち、ネットカフェ代に6万円、飲食代に3万円、残った1万円を洗濯やシャワーなどの雑費に充てている。

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 東京都の調査では、ネットカフェ難民の約3割が30代で、1カ月の収入は15万円以下が6割。日本の貧困ラインが世帯年収122万円と言われる中、ネットカフェ難民の多くがデータ上は貧困に直面している。

■ネットカフェ難民は幸福ではないのか

 さらに詳しい話をショッカーさんに聞いた。ネットカフェを選ぶ理由を「好きだからとしか言いようがないけど、寝るためであったりとか遊ぶためであったりとか。ネットカフェという場所がどういう風に思われているのか私は知りたい」と話すショッカーさん。対して、慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「貧しい人たちが生活している場所だと思っている人は多いが、僕からすると贅沢な図書館」と返す。

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 ショッカーさんは「夢は特にない」といい、「今かなりの贅沢をしていると思ったらそれ以上求めますか?贅沢を限りなく見ちゃったら、人はそれ以上の贅沢を求めないと思う。これでいいやってなるので」ときっぱりとコメント。貯金はなくても、手持ちのお金がなくなれば仕事を入れるという生活を謳歌しているという。15万円の収入のうち、ネットカフェ代に6万円、飲食代に5万円、洗濯やシャワーなどの雑費に1万円、月2、3回通うカールズバーなど娯楽代に3万円を充てている。

 「貧困とは何か」という問いにショッカーさんは「それはわからないけど、私は自由が1番!もしかしたら、自由に生きている人を貧困というのかもしれない」と回答。若新氏は「世の中の貧困がゼロになったとは思わない。だけど、色々な選択肢を納得して選んでいるという人はいっぱいいて、ショッカーさんは自身の納得をすごい大事にしている。見えないところに貧困があるんじゃなくて、見えないところに幸福がある。幸せの形が多様になってきたといっても、どこかで線引きをして実は新しいものを受け入れていない。勝手に線引きせずに、新しい生き方を選んでいる人がいるということを知るべき」と、貧困と幸福のあり方に疑問を呈した。

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 取材を終え若新氏が振り返るのは「選択している」ということ。「誰かがネットカフェ難民という言葉をつけた。難民というと、どうしようもない問題が起きているように見えるが、1個1個を丁寧に見ていくと、そういう状況を選んでいるのは貧困と言えるのか。人生のいろいろな挑戦や選択や希望、色々なものがいっぱい入っているのがネットカフェであるような気がした」と指摘する。

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 これに対し、リディラバ代表の安部敏樹氏は「10~20年前あるいは50年前も、ホームレスと呼ばれる人の中にはいろんな理由の人がいたし、自分で選んでいる人もいた。貧困と幸福は対立軸ではなくて、どんな状態も主観で幸福になりえる。ただ、難民・貧困という状態はできれば解消できた方がいい」と主張。若新氏は「貧困から救う支援もあれば、幸福を実現してあげる支援もあると思う。難民という言葉だと可哀想だから助けるという風になってしまうが、頑張ろうとしている人もいることは理解すべき」と訴えた。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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