世界を震撼させたオウム真理教の地下鉄サリン事件からまもなく23年を迎えようとする中、東京拘置所に収容されている13人の死刑囚のうち、7人が大阪・名古屋・福岡・広島・仙台の拘置所に突然移送された。7人が移送された5か所の拘置所は、いずれも死刑を執行する施設が設置されている。移送先は林(現姓小池)泰男死刑囚が仙台、横山真人死刑囚、岡崎(現姓宮前)一明死刑囚が名古屋、井上嘉浩死刑囚、新実智光死刑囚が大阪、中川智正死刑囚が広島、早川紀代秀死刑囚が福岡となっている。
今回の移送をめぐっては、法務省が死刑執行の検討を本格化しているためとの観測もある。中には天皇退位までの1年間を平穏にするため4月中に執行されるという見方や、各死刑囚の移送先を明らかにしたのは執行前に面会できるよう配慮したため、といった見方もあるようだ。会見で上川法務大臣は詳細な説明を避けたが、法務省は「共犯分離」が目的であり、心身の状況、教団との関係、親族などとのやりとりの状況などから総合的に判断したとしており、死刑執行とは無関係としている。
移送された一人、中川智正死刑囚とこれまで14回にわたって面会、オウム真理教の生物化学兵器について聞き取りを行ってきたアンソニー・トゥ米国コロラド州立大学名誉教授は、移送前日の13日に中川死刑囚と面会した。
今回は珍しく中川死刑囚側から「色んな話をしたい」と連絡があったと明かすトゥ氏。「普通通り笑顔で非常に朗らかで、寂しいようなところはなかったが、今回は向こうからたくさん話をしてきた。話す内容も今までと全然違っていた。向こうが切り出したのは、いつかはわからないけれども移送される可能性がある。命令が来たら書類や文献をすぐに持っていけるように準備しています、ということ。別れるときには、新しい拘置所は規則が違っていて面会もできなくなる可能性があるから、今回の面会がひょっとしたら最後になるかもしれません。先生もお元気で、と言われた。話せる時間はいつも大体30分。長いようで短いので、時々"あとどのくらいですか?"と傍のお役人に聞いていた。今回も聞いたら"少しずれてもいいですよ、ゆっくり話してください"と言われた。今までとちょっと違うなあとびっくりした」と振り返った。
オウム真理教内部を取材したドキュメンタリー映画『A』の監督である森達也氏は、「一報を聞いた時にはびっくりした。原則として同じ事件の死刑囚は同じタイミングで刑が執行されるので、オウム真理教の死刑囚たちも事前に分散されると言われていた。裁判が終わったので共犯分離の原則から分離したのかもしれず、執行とは関係ないのかもしれない。だからと言って執行されるのがはるか先かと言われれば、そうではないだろう」と話す。
30年に渡りオウム事件を取材してきた所太郎氏は「死刑を執行できる施設を持つ拘置所は全国で7か所。1日に死刑が執行可能なのは2人と言われているので、整合性があるという見方も当然できる」とした。
■後継団体の信者による"神格化"も?
オウム真理教の後継・分派団体として2000年にオウム真理教から改称される形で結成されたアレフの信者数は約1450人とされている。また、2007年にアレフから分派した「ひかりの輪」(代表・上祐史浩氏)の信者数は約150人とされ、2015年にアレフからさらに分派した「山田らの集団」という団体の信者数は約30人だという。中でもアレフは松本死刑囚への帰依を強め、勧誘を活発化させているという報道もある。勧誘活動は全国で展開されており、2016年中には約130人の新規信徒を獲得。新たな拠点施設も確保しているという。
仮に死刑が執行された場合、このアレフが何らかの行動を起こすのに備え、公安調査庁が警戒しているとの報道もある。長年、教団と対峙してきたオウム真理教被害対策弁護団の滝本太郎弁護士は、元信者による後追い自殺や、死刑囚が"殉教者"として神格化され、テロを起こす発端になる可能性を指摘している。
森氏は「公安調査庁は入信した信者数を発表しても脱会した信者数を発表しないので、数はゆるやかに減っていると思う」との見方を示した上で「オウムに限らず、あらゆる宗教で死んだ人は神に近い存在になる。そもそもアレフやひかりの輪がどの程度に危険なのか、危険な理由は何かということをしっかり見据えなければいけない。なぜあんな事件をオウム起こしたのかというメカニズムをしっかり理解しなければ、危険かどうかという議論もできない」と指摘した。
一方、所氏は「アレフやひかりの輪の中には、"麻原原理主義"ともいえる古参信者たちが残っている。その人たちが死刑執行後にどういうリアクションを示すのか、予測がつかない。また、いずれ我々は一つの事件で立て続けに13人が死刑執行されるという現実を見ることになる。そのことの意味、大きさをどう語り残していくのか。"そういうことがあった。13人が死刑で終わったよね"というだけにしてはならない」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)