
19日、韓国の検察は収賄疑惑で捜査中の李明博元大統領に証拠隠滅の疑いなどがあるとして、逮捕状を請求した。関係者によると、李氏は2008~2013年の在任中、韓国情報機関や企業から日本円で約10億円の賄賂を受け取っていた疑いがもたれているという。
14日、取り調べのために検察に赴く際には「私は今打ちのめされている。現在の朝鮮半島情勢と経済危機の中で身内のことで社会不安を引き起こすのは非常に残念だ」と語っていた李氏。「左派の現政権による"政治報復"だ」とも主張していた。近く裁判所に出頭、逮捕が妥当かどうかの審査を受ける見通しだが、収賄容疑のほか、脱税やサムスン電子会長に便宜を図ったことなど、ほとんどの容疑について否認しているという。
仮に李氏が逮捕されれば、全斗煥氏、盧泰愚氏、そして昨年の朴槿恵被告に続き、大統領経験者として4人目の逮捕者となる。李氏とは一体どういう人物なのか、また、韓国の大統領経験者はなぜ牢獄に落ちていくのか。19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、李政権時代に在韓国特命全権大使を務めていた武藤正敏氏に話を聞いた。
■生い立ちと日本との関係
1946年に大阪市で生まれた李氏は現代建設会長を経て政界入りし、ソウル市長、そして2008年に大統領に就任した。

「立志伝中の人だ。家は貧しく、大学もバイトしながら通った。学生運動の会長をしていたことから逮捕され、朴正煕大統領に手紙を書いてやっと現代建設に就職ができた。従業員数は当時90人くらいの会社だったが、李氏が会長を経て辞める時には14、5万人くらいの会社になっていた。一日に18時間以上働き、5時間以上は絶対に寝ないといわれていた。大統領になってからもその働き方、即断即決のスタイルは変わらず、軍人や政治家の出身者と違って、やはりビジネスマンだった。リーダーとしての手腕はものすごかったが、もともと財界人でお金を持っていたので、国民のイメージもクリーン、庶民派というよりは財界に近い人というイメージだったと思う。中東や東南アジアでも仕事をしていたので、地政学、国際関係には詳しい」。
就任当初は親日的姿勢を見せていたが、支持率低下とともに対日強硬路線に走り、2012年8月に現職大統領として初めて竹島に上陸、天皇に謝罪を要求した。これを受け、武藤氏は一時帰国を余儀なくされた。2015年に出版された回顧録では、慰安婦問題について当時の野田総理と最終的解決寸前になったが、衆議院解散で立ち消えになったことなどが綴られている。また、北朝鮮に対しても核放棄すれば経済援助するというスタンスだったが、延坪島砲撃や哨戒艦沈没事件が重なり、南北関係は最悪と呼ばれる状態に陥った。その後、2013年に任期を満了している。

「どの大統領も、就任当初は日韓関係をうまくやろうとする。李氏もお兄さんが韓日議員連盟の会長をしていて、"韓国企業が海外でインフラ開発などを行うときには必ず日本の企業と協力してやれ、その方が韓国としてもメリットがある"と言い続けた人だった。そのため、任期前半は特に経済関係において日本との関係をものすごく重視していたし、日韓関係が難しくなるとお兄さんが間に入ってくれていたが、竹島上陸の時には逮捕されてしまっていた。竹島問題については、当時の福田総理に教科書でより強く扱うようになると言われたが、それに対して強く反対しなかったと国内で批判を受けた。そこで支持を回復しなければならないという思いがあったのだろう」。
■韓国の大統領経験者はなぜ牢獄に落ちていくのか
韓国の歴史を振り返ると、自殺や暗殺、逮捕など、ほとんどの大統領が不幸な晩年を迎えている。また、親族が逮捕されるケースも非常に多い。武藤氏は「韓国は家族の繋がりが非常に強く、非常にお金がかかる大統領選挙のときには家族を使って色々なことやる。また、韓国には"三族を滅す"という言葉があり、王朝時代から政権が変わると父母・兄弟・妻子も一緒に追放しないと次は自分がやられてしまうという伝統がある。今でも大統領が変わると、側近だった人は追い出されてしまう。また、財閥と政府の関係も密接で、ものすごく複雑な関係だ」と説明する。

また、このタイミングで捜査が及んだことについては「朴槿恵前大統領のことが落ち着いてきたということもあるだろう。様々な側近が調べられ、ついに李氏にまで捜査の手が及んだ」と推測。「韓国はよく"法治国家なのか?人治ではないのか"と言われるように、人が変わるとガラッと変わってしまうところがある。司法試験に受かる人は運動系出身の人が多く、北朝鮮が応援をしていたと噂が出るような人もいる。だから慰安婦問題でもあのような判決が出る。朴槿恵さんが追いやられた時も、運動の中心になっていたのは北朝鮮が絡んでいるような労働組合などだった」とした。

講談社の瀬尾傑氏は「やはり文在寅大統領が盧武鉉大統領の側近だったということも関係しているだろう。もともと盧大統領を追い込んだのが李氏だったという恨みがあり、著書でも李氏の実名を上げて告発していた。ただ、"誰かを犯人にしないといけない"というメディアや国民感情に便乗していく韓国検察の怖さがある。司法の中立性が守られておらず、民主主義国家としては怖い」と指摘していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


