13日、米英仏3か国がシリアへの武力攻撃を実行に移した。アメリカ国防総省は発射した105発のミサイルすべてを化学兵器製造施設に命中させたと発表、攻撃前後の衛星写真を公開して戦果を強調。トランプ大統領も「フランスとイギリスの素晴らしい軍事力に感謝する。最高の結果だ。任務完了」とTweetした。

 今回アメリカなどが攻撃に踏み切ったのは、国連の化学兵器禁止機関が現地調査に入る直前だった。その判断にも影響を与えたとされる映像がある。7日に反アサド政権系のグループとされる「ドゥーマ・レボリューション」がFacebook上で配信したもので、シリア政府軍がダマスカス近郊の東グータ地区にいる反体制派に対し化学兵器を使用、苦しむ子どもたちが病院で治療を受けているというものだ。この映像はCNNやAP通信を通して国内外のメディアが繰り返し放送されたが、CNNも「映像内容を独自検証できていない」との注意書きも入れている。

 映像についてロシアのラブロフ外相は「我々の専門家の調査では化学兵器の使用を裏付ける証拠はなかった。むしろある国の特殊機関による捏造だという、揺るがぬ証拠がある」とコメント、元スパイ暗殺疑惑で関係が悪化しているイギリスが捏造したものだと主張。一方のアメリカのヘイリー国連大使は「亡くなった子供たちの映像はフェイクニュースではない。非人道的なアサド政権の残虐行為の結果だ」と訴えている。

 16日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、問題となっている映像についてシリア情勢の専門家である青山弘之・東京外国語大学教授に話を聞いた。

■「この情報だけを鵜呑みにするのは非常に危険」

 まず青山氏は「ドゥーマ・レボリューション」について「"Douma Coordination(=ドゥーマ市の調整)"とも呼ばれている、比較的知られた団体。"アラブの春"がシリアにも波及して混乱した2011年、抗議デモを主導したり、ネット上に政府による弾圧の映像を流したりするときに、若者たちが自分たちのことを"Coordination=調整"名乗ったことの名残り。アサド政権を倒す、ないしはアサド政権の非道をシリア国民に知らしめるということを最初の任務にしていたので、彼らのアカウントは今もアラビア語。ただ、人道的な問題に対して西側の諸国はすごく反応するので、英語を使っても配信している。2013年にもアサド政権が化学兵器を使用したと言われているが、その時に映像を公開したのも彼らだ」と説明する。

 自国民に対するアサド政権の非道さを印象づけるこの映像だが、果たして「化学兵器の使用」という主張に信ぴょう性はあるのだろうか。

 青山氏は「地元の人によるものだからと言って、この情報だけを鵜呑みにするのは非常に危険だと思う。本当のものかということには留保したほうがいい。今回の空爆の正当性の是非に関わるような非常に重大な問題であるにもかかわらず、それを検証する2次情報がない」と指摘。「事件が起きたドゥーマ市は政府軍がほぼ制圧しているので、国際社会から非難を招くような化学兵器をあえて使う理由はないという見方もあるし、ロシアやイランが後ろ盾にいるアサド政権がアメリカを試して、トランプ政権のシリア政策における無力さをアピールするための"強行偵察"ではないかという見方と、2つのストーリーがある。どちらも政治的立場によって妥当に聞こえてしまうというのが今回の複雑なところ。実際、トランプ政権はロシアを刺激しないようにものすごく慎重に爆撃をした。シリア各地に展開しているがロシア軍は標的から外したし、イランも標的から外した」と指摘する。

■東グータ地区の複雑な政治状況

 また、映像が撮影されたとされる東グータ地区は「体制派が支配している地域の中でも最も人口が多い」とし、その重要さから両営による情報戦が繰り広げられてきた場所だと話す。シリア国営放送は破壊された施設の様子を放送し、シリア政府は破壊されたのは抗がん剤などを開発する平和的な機関だったと主張している。

 「ロシア・アサド政権側が、イギリスの支援を受けたホワイトヘルメットという団体が、アサド政権を貶めるためにフェイクで化学兵器を使うのではないかという情報を流したこともある。東グータを制圧していた反体制武装勢力は主にアルカイダと自由シリア軍、そしてドゥーマ市を守っていたイスラム軍と言われる3つの組織。一言で"反体制派"と呼ばれるが、それらが一緒になってアサド政権と対峙していた。そして反体制派の支配地域は西側諸国が支援していたが、トランプ政権になって事実上ハシゴを外され、戦況が不利になっていった。そんな中、化学兵器に関する情報が出てきて、また西側が干渉を強める事態になった」。

 米英仏による攻撃の翌日には、首都ダマスカスでは政府支持派によるデモが行われ、「我々はアサド大統領を支持する!」とのシュプレヒコールが上がっていた。シリア国内には、アサド政権を支持する人たちがいるのも事実だ。

 アメリカと同盟関係にある日本人が情報に接する際の注意点として、青山氏は「シリアの情報はどんどん報じられなくなってきている。我々はトランプ大統領がTwitterで何か大きな打ち上げ花火をした時に1日、2日だけ関心を持って、また関心をなくしてしまうが、シリアの皆さんの苦しみは日々続いている。非常に印象に残る鮮烈な映像が多いが、そこだけに注意を向けるのではなく、背後で苦しんでいる人々のことに想像力を働かせ、常に頭の中に置いて、何か起きた時に変な形で曲解しないように備えるべき」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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