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 「死ぬことはそう悪いことではない。何年生きたか、ではなく、どういう風に生きたかの方が大切ではないか」。

 公園で楽しそうに遊ぶ、写真家の幡野広志さん(34)とその家族。どこにでもいる普通の親子のようにも見えるが、実は今、幡野さんの「余命」を意識しながら暮らしている。

 2011年、優秀な若手写真家に贈られる「Nikon Juna 21」を受賞、同年には由香里さんと結婚し、一昨年には長男・優くんが誕生した。順風満帆な人生を送る幡野さんだったが、昨年3月、背中に異変を感じたのは。通院したが原因はわからず、10月頃には痛みで眠れなくなるほどに症状は悪化。11月にMRI検査したところ、がんが発覚した。そして今年1月、がんの一種「多発性骨髄腫」で主治医から3~5年の余命宣告を受けた。抗がん剤治療を続けており、体力や免疫力が落ちえいることから風邪でも命を落としかねないため、室内でもマスクを欠かさない。

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 余命宣告を受けながらも、幡野さんはそれを自然に受け止め、ポジティブに暮らしている。それは一体なぜだろうか。

■妻・由香里さん「恐怖はない」

 宣告を受けた時について幡野さんは「妻と2人で聞いたが、ショックだった。マジか、と思った。まずは妻のことを落ち着かせようと思い、確か"しょうがないよね"と言った。34、35歳で、余命が数年だと。子供は2歳にもなってない。妻に申し訳ないなと思った」。

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 「僕は狩猟もやっていた。散弾銃を持って山に入り、鹿や猪とか鴨を狩っていた。だから死ぬことは身近にはあったし、自分の順番が来たのかなという感覚になった。僕が慌てふためいてしまうと、妻や子ども察知して、落ち着きがなくなってしまう。息子の存在は大きい。僕がメディアに出ることによって、息子は将来それを見ることができる。そういうことを考えると、しっかりしなければいけないと思う」。

 由香里さんは「何でうちなのかな、とは思った。でも"なんでだろう"というより、次は何していけばいいだろう。ショックは大きかったが、何をしても寿命が延びる訳でもないし、一緒にどうやっていくかということをすぐに考えた」と話す。

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 夫の余命が迫ることに「恐怖」を感じるかと尋ねると、由香里さんは「ないですね。ただ彼が元気で、元気でというか毎日過ごして、やりたいことをやって、行きたい所に行って、会いたい人に会って、息子と遊んで。今日も一日、終わったねという感じで。彼が満足いく一日だったらいいと思う」と答えた。

■「子どもの写真を撮る機会が増えた」

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 余命を宣告されてから写真についての見方が変わったという幡野さん。「仕事だから、当然お金が発生している。健康だった時はお金にしがみついたりもしていたが、身体を壊してみると大したことではなかったんだなと思った。それで写真に対しての距離感が変わった。撮る対象が大きく変わったし、写真を残すということを考えるようになった。発する言葉や文章も大きく変わった。若くして死んじゃう人がある程度いるってことを社会に知ってもらうために、分かりやすく、多くの人に知ってもらえるような文章を心がけている」。

 また、以前にも増して息子を撮影する機会が増えた。「写真というのは、撮影者が被写体と一緒にその場にいなければ撮れない。だから息子が将来それを見返した時、父親と一緒いて、どういう気持ちで息子を撮っていたかということも分かるようになる。今の僕の気持ちを知って欲しくて撮っている」。

 幡野さんは今、ブログ・SNSで余命宣告を受けたことなど様々なことを発信している。その結果、健康食品や宗教の勧誘などをしてくる人も現れたという。

 「人によって違うと思うが、僕は日常通りで良い。それをみんながやってくれない。友人関係も清算したし、携帯電話も解約した。同じ話を何十回もしないといけなくて大変だった。落ち込んだ状態で会いに来る人も多く、こっちがむしろ気を遣わなければならず、精神的に消耗してしまった」。

■「余命宣告を受けて良かった」

 日本の病院における死亡者数は年間約100万人で、このほぼ同数が、何かしらの形で余命の宣告を受けていると考えられているという。

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 しかし日本医科大学武蔵小杉病院医師の勝俣範之教授は「医者が言う余命は3割程度しか当たらないという研究結果もある。余命について、むやみに断定的な年数で言うべきではない。患者さんが傷付いてしまったり、ショックからうつ病になってしまったりする人もいる。患者さんの状況を考えて慎重に対応するべきだ」と指摘する。勝俣氏によると、余命宣告で伝えられる年数はあくまでも生存期間の「中央値」のことで、「平均値」ではないという。

 「1年と言われたらあと1年と思ってしまいがちだが、そうではない。がんの患者さんはバラつきが大きいので、わざわざ中央値で言っている。それなのに"平均"と言ってしまうお医者さんもいる。多くの場合が、患者からの"どのくらい生きられますか"という質問に、自身の経験から答えてしまっているのが問題だ。私のような腫瘍内科医が海外に比べて日本は非常に少ないということも背景にはあると思う」

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 一方、余命宣告を幡野さんは、余命宣告を受けたことについて「良かった」と話す。「最後に知ったら、後悔したと思う。あらかじめ教えられていた方がベストを尽くせる。ペース配分もできるから。健康で仕事をこなしていた時は、家族との時間を後回しにしていたが、そういうことにも気づけた。お金を持っていようが持ってなかろうが、いずれみんな死ぬ。永久に生きる人はいないわけで、死ぬということを考えて生きた方が、生きやすくなるのかなと思う」。

 そんな幡野さんが5年間の狩猟で撮影した作品を集めた『いただきます、ごちそうさま』が今、「ego Art & Entertainment Gallery」(東京・日本橋)で開催中だ。期間は5月8日まで。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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