この記事の写真をみる(15枚)

 「両陛下も大事にされてきた皇室の長く続いた伝統を継承しながら、現行憲法で規定されている『象徴』としての天皇の役割をしっかりと果たしていくことが大切だと考えています」

 「今後とも、両陛下の御公務に取り組まれる御姿勢やお心構え、なさりようを含め、そのお姿をしっかりと心に刻み、今後私自身が活動していくのに当たって、常に心にとどめ、自己の研鑽に励みつつ、務めに取り組んでまいりたいと思います」

 今年2月、58歳の誕生日を迎えられた皇太子さまの、来年のご即位を念頭にしたお言葉だ。皇太子さまはこれまでもご公務の中で象徴天皇としての在り方を模索してこられたという。

■ご活動を知る機会があまりない?

 学習院中等科時代からの同級生、今井明彦氏は毎年、皇太子さまと食事を共にしてきた。「以前、友人の一人が、天皇像や、いつ頃から準備・覚悟ができていたのか伺ったところ、まず出てきたのは"私もここに生まれて"という言葉。年を追うごとに心の中できちんと整理ができてきて、何をしなきゃいけないのか、自分がどうなるのか、ということ準備ができてきたとおっしゃっていた」。

拡大する

 街の人は、新しい天皇となられる皇太子さまに、どのような印象を持っているのだろうか。

 「誠実さを感じる皇太子さまだから、また誠実になさるのでは」と話す70代女性がいる一方、若い世代からは「(何をされているか)分からない。全然知らない」(20代女性)、「(よく知らないのは)あまり報道されていないからではないか」(30代男性)と、そのご活動を知る機会があまりないと感じているようだ。

拡大する

 しかし、かつてメディアは皇太子さまをこぞって報道していた。1982年に学習院大学をご卒業後、イギリスのオックスフォード大学に留学をしていた頃のお姿にカメラが向けられ、寄宿舎の部屋には女優ブルック・シールズのポスターが貼られている様子など、お人柄もよく伝わってきていた。

拡大する

 さらに学習院大学大学院を経て28歳の時に昭和天皇が崩御、立太子の礼を行い皇太子になられ、1993年には雅子さまとご結婚された。当時の会見で皇太子さまは「安らぎのある、明るい家庭を築いていきたい」、雅子さまも「『雅子さんのことは僕が一生全力でお守りしますから』という風におっしゃってくださった」と皇太子さまのお言葉をご紹介されていた。そのお言葉通り、2002年には愛子さまがお生まれになり、暖かいご家庭を築かれていく。しかし、皇太子妃という特別な立場と、多忙な生活のストレスが原因で、雅子さまの体調が悪化。皇太子さまは一人での公務を余儀なくされる場面もあった。

拡大する

■会見の全文を一度でいいから読んでほしい

 そんな中、皇太子さまは2004年の会見で「それまでの雅子のキャリアやそのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実」と、大きな波紋を呼ぶご発言をされた。適応障害と診断された雅子さまを支えながらも、ご自身に課せられた公務に励まれてきた。元宮内庁職員で皇室ジャーナリストの山下晋司氏は「皇太子殿下がご公務をキャンセルされることはゼロに近い。決まっていること、新しいことも含め、ほとんど全て行ってきた」と話す。

拡大する

 明治天皇の玄孫にあたる竹田恒泰氏は「あと1年で天皇になられる方なので、皇太子殿下が日夜どんなご活動をなさっているのか、意識して報道してほしいと思う」と指摘する。

 「報道だと一部しか切り取られないが、過去の分も含め、ご会見の全文が宮内庁のHPに掲載されている。日本中のあらゆるところに目配せをなさって、あらゆる分野にご興味をお持ちになって、自分がどういう風に関わっていけるかなど、そういったところまでおっしゃっている。最後のところで"愛子が""雅子が"とおっしゃっているだけなのに、そこだけ切りとって繰り返し報道をすることで、天皇陛下は被災地のことをおっしゃっているのに、皇太子殿下はご家族のことばかりじゃないかというイメージができてくる。それで"皇太子大丈夫か"という人がいるが、とんでもない。まったく違う。会見の全文を一度でいいから読んでほしい。日本を愛し、国民を愛し、責務に立ち向かっていこうという覚悟を持っている方の言葉を見てほしい」。

拡大する

 実際、皇太子さまのご公務の内訳を見てみる(昨年2月23日~今年2月22日分)と、都内の主な行啓(宮中祭祀含む)が106件、地方行啓13件、外国訪問2件となっている。御所においても、内外要人等との御接見、御相伴39件、赴任大使や外国大使との御接見34件、御進講や御説明20件、御会釈67件、記者会見3件、国事行為臨時代行1件と、極めて多くのご公務をこなされていることが伺える。

拡大する

■国民の声を直接聞きたいというお気持ちが強い

 戦後70年という節目の2015年、天皇皇后両陛下がパラオをご訪問される中、皇太子さまは愛子さまと共に千代田区にある昭和館をご訪問された。戦中、戦後の人々の生活ぶりや苦労を伝える施設で、愛子さまにとっては初めての戦争関連の施設訪問だった。皇太子ご夫妻が愛子さまに戦争の悲惨さや平和の意義を教えたいと希望されたという。

拡大する

 天皇陛下がビデオメッセージで象徴天皇の在り方や公務についてのお気持ちを表明された前日、皇太子さまは愛知県の博物館を訪れ、戦国時代に書かれた後奈良天皇の直筆文章をじっと見つめられていた。それは、飢饉や疫病に苦しむ民のために国の平安を願い天皇が書写した般若心経だった。「過去の天皇が人々と社会を案じつつ歩まれてきた道を振り返る機会も大切にしていきたいと思う」。皇太子さまはそうお話になっている。

拡大する

 天皇陛下が長年続けてこられた祈り、そして国民に寄り添うお姿と重なると話すのが、福島大学理事・副学長の三浦浩喜氏だ。2年前、東北の被災地の高校生らと共に懇談した時のこと。「宮内庁と打ち合わせをした時には15分でした。ところが30分経った頃、ノックの音が聞こえました。"時間ですよ"という合図らしいのですが、皇太子殿下は"無視していいですからこのまま話を続けましょう"とおっしゃいました」。懇談は予定時間をはるかに超え、1時間近くに及んだという。「帰る時には雅子さまとお二人で玄関の外まで出られて、ずっとこちらに向かって手を振っていらした」。

拡大する

 ご学友の今井氏が「とにかくできる限り、直接会って話をしたい、国民の声を直接聞きたいというお気持ちが強いということはおっしゃっていた」と振り返るように、山下氏も「真面目で優しくてというか、非常に気を遣われる。海外ご訪問をご一緒させていただいた時、帰国後の解散式後、皇太子殿下に"お疲れさまでした。ちょっと飲みますか"と声をかけていただいて、2人で飲んだことがある。他の職員は翌日からも顔を合わせるが、宮内庁本庁から参加した私だけは当分お会いすることがないということをお分かりで、気を遣っていただいたのだろう。行事続きの2週間くらいの旅で、殿下の方が当然お疲れだったはず。ウィスキーだったような気がするのですが(笑)、思い出話を事務室の机でさせていただいた。周りのことは常に気をつけて見ておられる」とエピソードを披露した。

拡大する

■常にバージョンアップをし続けている存在

 昭和から平成。そして、間もなく新たな時代へ。目指すべき象徴天皇について、皇太子さまは「国民と苦楽を共にしながら国民の幸せを願い、象徴とはどうあるべきか。その望ましいあり方を求め続けるということが大切であると思う」と語られた。

拡大する

 慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「国民がもう一歩踏み込んで知ろうとしない。天皇陛下が即位された時、僕は小学生だった。子どもたちが素朴な気持ち先生に"天皇って何なの?"と尋ねたら、"飾りだよ、飾り。昔は権力を持っていたけど、戦争に負けたから飾りになった"と言った。家に返って、同じく教師をしていた両親に聞くと、"偉くもなんともない"と言われた。先生全員がそうだとは言わないし、象徴とは何なのかの説明が難しいのはわかるが、そういう話ばかりをしていると、理解が深まらない。天皇とは何かを議論することが大事なのに、教科書でも"象徴となった。以上"みたいな」と指摘。

 「天皇陛下も皇太子さまも、"模索"という言葉を使われる。これはつまり、結論が出ないということ。人生を通して常にシンボルとは何かを考え続けるというのは、"こういうものだ"と一方的に示すよりも難しいことだと思う。逆にいうと、常にバージョンアップをし続けている存在とも言えると思う」。

拡大する

 竹田氏は「"もはや象徴にすぎない"とか"かつてはこうだったけど、今はね"みたいに語られるが、本質は国民のことを理解して祈ること。これは昔から変わらないし、戦後に突然現れたのではなく、余分なものを取り払って純粋なものが残ったと考えればわかりやすい」と説明する。

拡大する

 「伝統と言うと、古いものをただ守ればいいと勘違いする人もいるが、ものすごくクリエイティブで、何か大切なものを残すためには変えていかなければいけないし、常に進化し続けるのが本来の伝統。変えながら、でも変えてはいけない本当に大切なものをしっかりと大切にして、見誤らずに丁寧に運んできたのかなという気がする。2000年以上続いているというと、叩いてもなにをしても壊れないもの、すごく強いものがあるかというとそうではない。いつでもちょっとしたことで壊れてしまうガラスのようなもの。どの時代の人たちも大切に守ってきた。天皇陛下も皇太子殿下も本当に努力なさっているので、逆に私たち日本人がどういうことができるのか考える、いいきっかけになるのでは」。

 山下氏も「皇太子さまに関する報道量は少ない」と指摘した上で、「国民の側からも、天皇陛下や皇族方に対してもう少し知ろうとすることが増えていけばいいと思う」とコメントした。

 "新天皇"即位まであと1年。私たちがこの国について幅広い議論をするチャンスだろう。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


▶放送済み『AbemaPrime』の映像は期間限定で無料視聴が可能。

国民と共に歩まれた天皇陛下の30年 平成も残り1年、竹田恒泰氏と「象徴天皇」を考える(1)
国民と共に歩まれた天皇陛下の30年 平成も残り1年、竹田恒泰氏と「象徴天皇」を考える(1)
 来年4月30日に退位される天皇陛下。1990年、日本国憲法下で初めて天皇に即位され、以来30年間、「象徴天皇」として歩んでこられた。  大日本帝国憲法においては、天皇は元首であり統治権を総攬(=統合
AbemaTIMES
AbemaPrime | 動画視聴はAbemaビデオ(AbemaTV)
AbemaPrime | 動画視聴はAbemaビデオ(AbemaTV)
見逃したAbemaPrimeを好きな時に何度でもお楽しみいただけます。今ならプレミアムプラン1ヶ月無料体験を実施しています。
この記事の写真をみる(15枚)